良薬口に甘し
皇毅の冷えた双眸に、同じように冷たく冴えわたる昊の寒月が映り込む。
暗い室内で体温を分け合いながら月光を眺めていると、腕の中で収まる玉蓮が見上げてきた。
「……今日ですね、皇毅様に丸薬を作りました」
「………丸薬?」
急に話題を変えられた不自然さの中、玉蓮はいそいそと寝台から降り、戻って来たその手には白磁の器が乗せられていた。
開けてくださいと促され、皇毅がぱかりと白磁の蓋を持ち上げると、中には確かに小さな団子状のものが詰まっていた。
にこにこと差し出された丸薬を暫し見ていたが「そうか」と労い、蓋を閉じる。
家人から午に玉蓮が大蒜を抱えて帰って来た話を小耳に挟んでいた。
この丸薬、怪しい気がする。
「え、………!是非、お一つ如何ですか?」
「どこも悪くないのにか」
「これは……丸薬ですが、滋養によいものを練り合わせたものです。普段から間食に摘まんでいただいて構いませんよ?」
そう言ってもう一度差し出すが、再び蓋が開けられる事はなかった。
(……せっかくお作りしたのに)
しょんぼりと肩を落とすと、ふと侍女のからかい言葉が脳裏に過る。
『玉蓮様が、あ〜ん、と仰れば……』
(……あ〜ん………)
皇毅が室内着に着替えるのを手伝いながら、小声で練習してみる。
後宮では秀麗と劉輝の睦まじい姿を目にしていたが秀麗が「主上!あ〜ん」なんて言っている姿を見たことはない。
本当に効くのだろうか。
「ふふふ、」
「どうした」
「秀麗様と、主上のお姿を思い出しておりました。いつも秀麗様を主上が追い掛けられて、筆頭女官様に呆れられておりました。でもその筆頭女官様も実は、藍家直系の武官様に追い掛けられていたのです、ふふふ」
面白がる玉蓮を窓辺の腰掛けに座らせ、皇毅は瞑目する。
「お前には一つ言っておかなければならない。彩七家の国試組達は勢いがあり尚且つ華やかで、交遊を持てばそれは楽しい事だろう。しかしお前は私の妻、伝統ある貴族派の人間となった。矜恃が高く付き合い辛いかもしれないが、これからは貴族派達との交流を重んじて欲しい」
「そんな、私は……国試組とか彩七家とか、そんな事を考えてお付き合いしている訳ではありません……」
秀麗の人柄と、そんな彼女を心から慕う劉輝の姿に自然と惹かれる。
そして秀麗の周りには素晴らしい人間が集まるように思えた。
皇毅もその一人だとすら思っていたのに。
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