謀は密なるを以て


−−−−−−−−−−−


小さな少女のつぶらな瞳に遠くで燃え盛る村の炎が映っていた。

遠すぎて火が弾ける音も熱風も届かないはずなのに、手足は焼かれたように熱かった。

背を追い越す高い草むらを掻き分けると、大きな麻綱が前を塞いで黒い陰が追ってくる。
ガシャガシャと耳障りな鎧の擦れる音が鳴り響いた。



『−−−さま、−−−−て、−−−−さないで!』


喉が裂けんばかりの金切り声をあげるが、自分が何を叫んだかは解らない。

武官は少女の襟首を捕まえ炎から遠ざけるように投げ飛ばした。






−−−−玉蓮!


沼から引き上げられるようにパチリと目が開くと、皇毅が見下ろしていた。

臥室の寝台に横たわっているのだと気がつくが額には汗が滲み出ていた。

「皇毅様………私……」

「お前は時折悪い夢をみるようだな」

冷たくなった指先を揉み解しながら、それでも安堵したような溜め息が降ってきた。

「起こしてしまいましたね……申し訳ありません」

お水を頂いて参りますと、よろけながら立ち上がり薄物を羽織り履物をつっかける。
平静を装う姿が逆に痛々しく放ってはおけない皇毅が手を取り厨房場へと連れて行ってくれた。

今見ていたはずの夢がゆらゆらと沈むように消えてゆく。
あれは昔見た光景だったのだろうか……

幼い頃の穴だらけの記憶

繋がれた手を見詰めながら回廊を渡り暗い室を覗き見る。火種の落ちた厨房場には誰もいるはずなく静まり返っていた。

美しい曙まではまだ遠い。

玉蓮は白い息を吐きながら瓶に杓を入れて透き通る水を掬い上げた。

滅多に来ない厨房場の様子を視線だけで座視していた皇毅が指だけで呼び寄せている。

小首を傾げちょこちょこと寄り横に座ると腰に腕が回ってきて抱き寄せられた。

「あ…………」

してほしい事を見抜かれた気がして玉蓮はくしゃりと眉を歪める。

「まるで湯たんぽだな」

「え、湯たんぽ?ご用意しましょうか?」

「お前の事だ」

「まぁ、私の事ですか……それなら皇毅様も湯たんぽみたいです」

ふふふ、と自然と笑みが溢れる。本当に温かい湯たんぽみたいだ。




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