追憶


胡蝶が用意してくれた客室へ通されると玉蓮はその瀟洒な内装の造りに声を呑んだ。

妓楼特有のむせかえるような紅い室ではなく、白を基調とし上品な絵画や生花が飾られている。
ぽんと飾られた壺一つの美しさに思わず傍に寄り細かい細工を見ていると続いて皇毅が入ってきた。

「妓楼の主人に骨董品を買い揃える趣味でもあるのだろう」

「そのようですね。まるで後宮にいるみたいです」

「此処の妓女達は官妓として宮廷の宴席にあがることもある。故に芸事、礼節の他に楽器、漢詩、詩歌、絵画に精通していなければならない。よって最上の品を揃えているのだろうな」

淡々と感想を述べ皇毅は椅子に腰掛ける。
そして落ち着かない様子で逡巡する玉蓮にトンと指で机を叩いて座るよう促した。

玉蓮はちょこんと椅子に座って読めない夫の機嫌を窺う。

「……………」

「……………」

しん、と静まり返った室に何処からか女性の楽しそうな声が聞こえてきた。

妓楼

女の笑い声

(あの時と同じだわ)

玉蓮が妓楼へ押し込まれた夜。絶望と困惑の中、藁にもすがる思いで皇毅に酒を注いだあの夜。

目の前に置かれた酒瓶を手にとると良い香りのする酒が入っていた。
良い香りがするとつい、くんくんと匂いを嗅いでしまう癖を披露していると身体がホンワカと熱くなってきた。

「大夫、さま……」

「大夫様?」

玉蓮は座ったまま精一杯腕を伸ばして酒瓶を傾ける。あの夜と同じようにやっているのだが皇毅は気が付いてくれるだろうか。

「如何ですか?」

妙に腕を伸ばして酌をする姿を凝視しながら皇毅が杯をとる。

「………『お前は……あの時の女か?』」


−−−お前、あの時の女か


皇毅からあの夜と同じ言葉が返ってきた。

「はい、!あの時の女です!お久しぶりでございます」

「あの夜からやり直すという訳か。ならば別の結末があった方が面白いかもしれんな」

「別の……結末、ですか……どんな?」

「結末はやってみないと分からんだろう」

意地の悪い返答に玉蓮は眉を下げた。




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