矛を収める


−−−ピタン、ピチャン、


石壁から冷たい水滴が床に落ちる音が響く。

刑部の取調室で拇に深い古傷を負い爪が腐りかけている男が冷たい木椅子に座らされていた。

対面にはふんぞり返って調書を捲る刑部官。室の外には護衛官が控えている。

「何が万能の鎮痛薬だぁ?ただの阿片じゃねーか!」

ダン、と刑部官が卓子を叩くと罪人はがたがたと肩を震わせた。
目は怯えているように落ち窪み冷や汗が出ている。

「知りませんでした……私はただ、言われるままに薬を売っただけです……阿片だなんて恐ろしいもの知りませんでした」

「ハイハイ、知らなくても罪です残念でした。後はどれだけ情状酌量されるかだ」

後何人の調書を上げなければならんのだと面倒臭そうに筆を走らせる刑部官だが、背にしている取調室の扉が開き入室してきた人物を見ると急に顔色を変えた。

椅子をひっくり返す勢いで立ち上がり罪人に負けない悲愴顔になる。

「御史台官!?わ、わ私は何もしておりません!」

「…………どけ、お前ではない」

怒気を眉間に刻んだ皇毅は刑部官の椅子をぶんどり罪人の前に座した。

刑部官は目を丸くして二人を交互に見る。
寒々しい取調室の気温が更に下がり吹くはずもない風が肌を凍らせた。

何故御史台が関わっているのだろう。

腕を合わせ震え上がる官吏よりもずっと冷静に罪人は皇毅の様子を観察していた。
それを一瞥し、予想通りの悪党だと皇毅は持っていた冊子をバサリと卓子へ投げた。

「これが何だか分かるか」

「いいえ存じません」

男は冊子の中身を見ずに答えた事を少し悔いた。
医倉の医女が付けていた出納帳であると一目で分かり反射的に否定してしまったのだ。

バサリ、
もう一冊が投げられる。

「そっくりなものがお前の邸から押収された。もう一度訊く、この冊子は何だ」

「……………」

全て玉蓮が付けた薬剤庫の出納帳。
不自然に減る薬草が正確に綴られている。
これを辿れば阿片がどれだけ密造されたのか割り出せるだろう。




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