耀く星屑


陽のあまり当たらない執務室の窓を朔風が揺らし寒冷を覚える。
夜の目も寝ずに仕事にとりかかる秀麗は乾燥した瞳を潤す為に強く瞬きをしてもう一度書翰に向き直った。

仕事は未だ雑用めいた事が多いが常に一意専心、細い糸にぶら下がるような思いで過ごしていた。

そんな秀麗には今、仕事以外で気に掛かる事が一つあった。

手にしている書翰の文末にもある御史台長官の印と署名。


『葵皇毅』


(葵長官の名前も……)


−−−コウキ



始めそれに気がついた時、秀麗は面白い偶然だと爆笑した。

しかし頭を冷やして考えれば腹の底に沈殿していた違和感が砂を巻いて上がってくるのだ。

あの日、玉蓮はいきなり「コウキ様」と会話に名を混ぜてきた。
初対面ならば普通紹介してくれる、ような気がする。

つまりコウキ様は後ろにいた男性ではなく秀麗もよく知っている者、だとすれば−−−

「いやぁあああ!!嘘よ嘘よーーッ」

いきなり奇声を上げる秀麗だが裏行の蘇芳は未だ出仕しておらず奇声は静かに執務室の壁に吸い込まれた。

秀麗はガバリと机案上で頭を抱える。

もし、仮にそうだとしたら昨日皇毅にとんでもない事を言い放った気がする。
長官はカンケーありませんと宣言した気がする。いや、決闘状叩き付ける勢いで確かにした。

(ちょっと待って、玉蓮さんの旦那様と仲良く食事会をするけれど、葵長官は関係ないわけで……もし旦那様が長官だったらそれってどうなるの)

泥沼だ、否、血の沼だ。

カッと熱くなる頭がぐるぐると回転しだした。
するともう一つの違和感が更に砂となって巻き上がる。

玉蓮の派遣先を調べる派遣台帳に彼女の名前は無かった。
しかしそもそも官吏の派遣台帳には載らないのかもしれないと気が付いた。
皇毅の性格上、基本的な間違いを見つけようものならば盛大に嗤笑し上から指摘してくるはずだ。
であるのに秀麗が派遣台帳の話をした時、皇毅は取り合わず巧みに話をすり替えてきた。

愛する妻であるはずなのに玉蓮という女性など存在しなかったのように質問を沈めてしまったのだ。

(なんかおかしくない?大体、玉蓮さんが長官に爆弾発言して睨まれたのにその後直ぐに結婚なんて明らかにおかしいわよ)

秀麗は即座に鬼上司がやりそうな事を思案しだした。

一番合点がいくのは人のよさそうな玉蓮に嘘っぱちを吹き込んで利用しようと企んでいる事。

(そ、それって結婚詐欺ッ!あり得るわ……)

「玉蓮さんを探さなきゃ………葵長官の邸」

秀麗はギリ、と拳を握り締めた。




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