旧友達の密談


秋の虫の音もすっかり消え、冬の静寂に包まれる夜半、王の執務室からは未だ灯りが漏れていた。

秀麗が官吏として茶州を巡り、再び王宮へ舞い戻る間に劉輝も少しずつだが変わっていた。

そんな劉輝が籠る室へと続く回廊を脇目もふらず裾を捌いて直進して来る皇毅に、扉の前に控える衛士は礼をとる。

しかし、衛士達が頭を下げる横をやはり脇目もふらずサッサと通り過ぎ、皇毅は奥に構える宰相の執務室へと消えて行った。

王に用などない

無言だったが衛士達には皇毅の凍てつく言葉が聞こえた気がした。


宰相室に入り、山積みの議案や弾劾の書翰の中にいる悠舜を覗き込む。

「手伝うものはあるか」

「あぁ、皇毅ですか。助かります」

悠舜はにっこりと笑みを洩らすが、暗がりからも憔悴したような顔色だとわかる。

「あの王が常にチンタラグズグズしているから、お前が矢面になっているのだぞ」

皇毅の突き刺さるような容赦のない発言に慣れている悠舜は溜め息を一つ吐いただけだった。

「我が君は……私と一緒に矢面に立って下さっておりますよ」

大机案に積まれる書翰をいくつか皇毅の前に差し出す。

「でも、………最後の矢に当たるのは私ではないかもしれません」

消え入るような囁きが辛うじて皇毅の耳に届く。

「………フッ、悪党め」

渡された書翰に目を通しながら、皇毅は薬包紙に包まれた丸薬を悠舜の前に差し出す。

「大蒜の丸薬だ」

「は、?」

悠舜は口を開けたまま薬包紙を凝視する。
なんだろう、この年上みたいな皇毅の気遣い。
否、実際年上なのだが。

「ありがとうございます……でも、その優しさが……気持ち悪い」

薬はいつも妻の凛が持たせてくれているから結構です、と言うつもりが思わず本音の方がダダ漏れる。

途端にギロリと睨まれ皇毅が差し出した薬包紙を奪い返そうとするので、慌てて「一つ頂きます」と申し出た。

まあ、何か妙なもの入っていたとしても皇毅の場合は眠り薬くらいだろう、と丸薬を口に入れたが、栗の甘い味に思わず咀嚼する。

「………この丸薬、美味しいんですけど」

「まぁ、な」

「丸薬に妙な愛情を感じるのですが……気のせいでしょうか」

「それはさておき、刑部から平民医倉一斉捜査の申告があったろう。御史台から回した案件でな、お前の意見を聞かせて貰う」

さておかれた悠舜は先日から皇毅の言動が妙に面白い事に確信を持った。




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