―――――十二年後、吉野千秋の自宅。 「………ん?」 資料用の本棚からファイルを引っ張り出すと、一枚の写真がはらりと落ちてきた。 その写真に目を落とした吉野は、仕事部屋でネームのチェックをしている羽鳥と、机の上でクロッキー帳を開いている柳瀬の元へ向かうべく、勢い良くドアを開けた。 「吉野、ドアは静かに開けろ」 「遅い、千秋。で、今度の連載で使う背景の資料、見つかった?」 二人に同時に小言を言われて面食らう。 「ごめん、まだ…って、それよりさ、トリ、優!これ見ろよ!」 羽鳥と柳瀬は顔を上げて、吉野が手にした写真を見た。 「これは…」 「高校の時の写真?」 「うん。ほら、二年生の時に同じクラスで写真部だったあいつ、覚えてる?あいつが撮ってくれた写真が、さっき出て来てさ」 「ああ、あいつか。懐かしいな」 懐かしい人物を思い出して、羽鳥が目を細める。柳瀬も、当時を思い出してか口元を綻ばせた。 「だろ?…ところでさ。俺、この写真撮ってくれたあいつの名前が思い出せないんだけど…何て名前だったっけ?顔は覚えてるんだけど…」 「名前覚えてないってことは、どうでもいい奴だったってことだろ。別に思い出さなくていいんじゃね?」 本気で言っている訳ではないことは、からかい混じりの口調から読み取れる。吉野は眉を下げて、羽鳥に話を向けた。 「優、ひどくないか、それ…。トリは覚えてる?」 「俺は名前を覚えているが、ちゃんと自分で思い出してやれ。吉野とは仲が良かっただろうが」 「うーん、そうなんだけどさ…何せ、あいつが遠くの大学に進んでから、もう十年以上会ってないから…。あっ、出席番号順だと、俺より前だったのは確実!」 「…クラスメートの殆どが『吉野千秋』より前だと思うけど」 吉野が頭を抱え込んで呻いた。 「そう言えば。あいつ、確か写真部の癖に写真撮るの下手くそだったけど…」 柳瀬が吉野の手にした写真を覗き込むと、羽鳥もそれに倣った。両側に並んだ二人に見えやすいように、写真を持ち直す。 「そうそう、確かこれ、珍しく上手く撮れた方だからって記念に渡してくれたんだよ」 「…でも、上手く撮れた方でこれだもんな。本当に、気の毒な位にド下手くそだよな、あいつ」 「まあまあ、あいつらしくて良いじゃん」 「…そうだな、あいつらしい」 『見事にピンぼけしてる』 三人は揃って苦笑を浮かべた。 ちい様リクエスト「学生時代の傍目から見たトリ・千秋・優の関係」のお話でした。リクエスト有り難う御座いました! 学生時代のトリチアユウを書くのは初めてだったので、今まで抱いていた学生時代のトリチアユウへの妄想を詰め込みながら書いていく内に、どんどん長くなってしまいました…(汗)ですが、書いていてとても楽しかったです。 ここまで読んで下さり、有り難う御座いました! 2011.11.10 |