真っ白なシーツの海に、ぼすりと音を立てて沈む。キングサイズのベッドは大の男二人が乗っても心許なく揺れることはない。こんな行為の為に大きなベッドを選んだ訳では無かったのにな…とこっそり苦笑していたら、余計なことを考えるなと言わんばかりに唇を重ねられる。時折角度を変えながら深く合わさるそれに、離れた時には息が上がっていた。 「……は、あ…っ」 全力疾走した後のように息も絶え絶えな俺に反し、トリはいつも通りの顔をしていた。こいつの落ち着き払ったような態度は生来のものだが、それでも毎度羞恥と悔しさが入り混じって複雑な気分になる。 (……やっぱトリって、こういうこと慣れてるんだよな……) 回数を重ねる度に、疑念は確信になっていた。 トリがモテるのは昔から分かっている。中学や高校時代はしょっちゅう女子に告白されていたし、大学時代だって俺が知っているだけでも何人も彼女が居た。 けれど、トリと体を重ねることになって、分かったことがまたひとつ。 日常では意識しないような機関の奥を疼かせる、一つ一つが意味を持つ熱い触れ方。経験が無いそれではない。 …つまり、多分トリの過去には『彼女』だけではなく、俺の知らないどこかの男も居たのであろう、ということ。 どんどん知ることになる、俺の知らないトリ。まあ、分かったところで、どうにも出来ないんだけどさ。 突然、顔にぽとりと冷たいものが落ちるのを感じた。むしむしと暑苦しい熱帯夜に相応しく、いつの間にか双方汗だくで、トリの頬にも幾筋か汗が流れ落ちる。昔は何とも思わなかった幼なじみの顔が、とても艶めかしく見えた。 どこかの誰かは、こんなトリを知っているのだろうか。少し体温が低くて、たまにしつこくて、でもこういう時はいつも優しいトリ。生まれた時から一緒に居た俺は、つい最近までこんなトリを知らなかったのに。それってちょっとずるいかも。 ―――どうして分かってなかったのかな、俺は。 「…………吉野?」 熱い雫が一筋、自分の頬を滑るのが分かった。 俺は今、何故泣いているのか。自分でもよく分からない。 「……今日は、やめるか?」 そう言って、離れようとしたトリの首に腕を回して引き寄せる。 「……いいから、つづき、早くしろよ」 そのあと噛みつくように仕掛けたキスに流されて、またベッドに沈んでいく。 顔を濡らした雫は塩辛くて、何だか妙に切なくなってきた。 先日の海の日に因んだ話を書きたかったのですが……う、海要素、どこへ行ったの…?(キョロキョロ) 2012.07.17 |