※ロマンチカっぽいような設定のパロです。普通の男の子してる雪名くんが見たかったのと、木佐さんに「早いな」と言わせたくて出来た思いつきでした。 ※微エロ注意です。色々と構造もしています。 ※雪木佐というより木佐雪っぽいかもです…。 都内一等地の5SLDKマンション。 その目の前に立つ俺は、服はパーカーにジーンズ、足元はもう随分と履き古したスニーカー、左手には兄に持たされた豚汁をぶら下げている。…どこから見ても庶民的ないでだちで、場違いである感が否めない。 そもそも普段なら、こんなところに近付きもしていない。しかし、俺は今日このマンションの最上階の住人に用があるのだ。 煌びやかで重たそうな自動ドアが静かに開くと、エントランスに足を踏み入れた。 この高級マンションの最上階に住むのは、今日から俺の家庭教師となる人である。いや、正確には「予定だった」と言った方が良いのだろうか?俺は今日、その家庭教師の件を断りに来たのだから。 そこに住むのは、小説家の木佐翔太という人物だ。しかし、俺は名前を聞かされるまで、そんな小説家の名前なんて聞いたことがなかった。…兄によくよく話を聞くと、どうやら旧財閥木佐グループの次男である彼は一生働かなくても生きていける財を持っていて、小説は道楽で書いているようなものらしい。実名で書いているのではなくペンネームを使っていて、俺のあまり読まないジャンルを扱っているから、聞いたことがないのも道理だった。 ところで俺は読書が好きなので、今日の初対面の前に読んでみるのもいいかと、今回の件で初めて名を知る所となった木佐先生の著作を兄に借りて見せて貰った。「これはアイツの趣味と妄想と実益だそうだから、お前にはあまり興味が湧かないと思うぞ」と困った顔で兄が渡してきたのはピンク色の表紙のライトノベルで、中身の内容もそれはそれはピンク色であった。男同士の絡み合いの妄想が趣味で、それがどうやって実益に結びつくのだろうか…いくら本を読んで知識の泉を広げたとしても、世間という大海原は果てしなく広くてまだまだ俺の知らない世界はあるのだと思い知らされた。 ともあれ、どういう経緯かは知らないが俺の兄と木佐さんは友人で、先日の模試の成績が悪かった俺を心配した兄が勝手に、大学時代成績が優秀だったという木佐さんに家庭教師を頼んだのだ。 だが、自分で言うのも何だけど俺は勉強が出来る方で、今まで勉強に困ったことはないから、家庭教師なんて必要ない。 前回の模試の散々な点数は、解答欄を一問ずつずらして記入するという今時誰もしないようなうっかりをしてしまったからで(入試本番ではこういうケアレスミスに気をつけなければという良い教訓になった)、一問ずつずらして答え合わせをすれば志望校への合格ラインは優に越えていたし。 ……それに、出来れば木佐さんとはあまり関わり合いになりたくないのだ。正直、彼の第一印象は良くなかった。 ―――その日、俺が自宅の玄関のドアを開けると、玄関先には兄と見知らぬ男が折り重なっていた。 他者が入り込む余地も無さそうな睦まじさ。まるで額縁で区切った別世界での出来事みたいな二人の雰囲気に唖然とする。しかしこれは現実で、登場人物の一人は俺の兄である。 「お帰り、皇」 俺に気付いた兄が、いつものようににこりと挨拶をする。兄の首に巻き付いた男は、対照的に邪魔をするなとでも言いたげに俺をねめつけてきた。 「例の弟?」 「ああ。皇って言うんだ。そういえば、翔太は会ったことなかったっけ。皇、こいつは俺の親友の木佐翔太だ」 「ふーん…」 値踏みでもするように俺の頭の天辺からつま先までじろじろと見る木佐さんは、何がおかしいのか口の端を上げた。 「兄貴とは全然似てないな」 それは彼が抱いた率直な感想だったのだろう。だが、昔から兄と似ていないことを少しだけ気にしていた俺には、その率直さに余計にざわりと神経を逆撫でされた。 両親が交通事故で死んで以来、兄は親代わりになって俺を育ててくれた。大学進学を諦め就職し、仕事の傍ら家事をして俺の面倒を見てくれた。俺はそんな兄を尊敬しているし、慕っている。だから、そんな大好きな兄と似ていないと言われることは、例えそれが事実だとしても内心腹が立つ。 「お前はこう、いかにも庶民って顔してるじゃん。でも弟の方は、どこぞの国の王子様って言われたらつい信じたくなるような繊細な外見で、今着てる普通の代名詞みたいな学ランがちぐはぐで似合ってない。まるでボロ切れを着せられてるシンデレラみたいだな」 俺の内心の苛立ちを余所に好き勝手なことをのたまう木佐さんは、とどめに聞いてもいない評価を下してくれた。 「でも、顔は中々好みだけど、ガキ過ぎて圏外」 意味がわからない。そもそも、あなたの圏内に入りたくもない。 ……第一印象は、最悪だ。 「お邪魔しまーす」 いくら呼び鈴を鳴らしても誰も出て来ないので、あらかじめ渡されていた合い鍵で木佐さんの家に入る。外観の広さに比例したリビングのだだっ広さに萎縮しかけるのを堪えつつ、足を踏み入れる。どうやらリビングには誰も居なさそうだ。木佐さんはまだ寝ているのかもしれない。 「ん?」 リビングのテーブルの上には、例のピンク色の表紙の本が山積みにされていた。傍らに『見本誌が出来たので置いておきます』という担当さんの字とおぼしきメモが添えてあるから、これは木佐さんの著作なのだろう。 (やっぱり理解出来ない…) 少女漫画チックな表紙イラストの中の見つめ合う二人は、どう目を凝らして見ても男同士だ。いくら周りに花や点描を散らそうが、それは覆されない。 そもそも、男同士で一体何をどうしたらストーリーが始まるって言うんだ。少しばかりの興味本位で、手にした本のページをパラリと開く。 (……………って、これ、もしかして…) 絡み合う二人のうち、目の大きくて小柄な方があられもない体勢で喘いでいる。この人物の名前はどうやら『翔太』らしい。そして、『翔太』の上に折り重なり不敵に笑うこの背の高い登場人物の名前は。 「………この、腐れ小説家…っ!!」 寝室のドアを蹴破って、寝入っているであろう彼の部屋に上がり込んだ。ピンク色の表紙を見せ付けながら、声を荒げる。 「一体なんなんだ、この本は!!これは、あんたと兄さんじゃないか!」 一息に言って、寝室の中のベッドの小山を睨み付ける。シーツがもぞもぞと動いて、中から木佐さんがやっと顔を覗かせた。 「は…?」 眼光を鋭くした木佐さんが、先日以上に鬱陶しさを露わにして俺をねめつける。幼げな顔立ちに合わず、目だけで人を殺しかねない眼光を放たれてたじろぎかけたが、ここで引いては兄が妙ちきりんな小説の登場人物にされてしまう…いや、もうされているけど。ともかく、何としても止めさせなければ。 「俺の兄さんを変な道に巻き込むな!どうせあんたは、男なら誰でもいいんだろ!?」 木佐さんの肩がびくりと大きく震えた。そして、先日の彼の成人男性にしては弾んでいた声とは打って変わって、地を這うような声が紡がれる。 「………あいつがそう言った訳?」 「え」 「あいつが、巻き込むなって言った訳?」 「いや、その…」 「俺とあいつのことに口を出すな。むかつく」 半身を起き上がらせた木佐さんは俺の手を掴み、ベッドの上へと引き寄せた。文庫本がバサリと投げ出される音と、ベッドのスプリングが軋む音が重なる。 木佐さんは俺の上にまたがり、掴んだままだった俺の手首を片手で手早く拘束する。手際の良さに呆気にとられている内に、ジーンズのファスナーを開けられた。 「男なら誰でも。そう言ったのは、お前だろ?」 意地が悪そうに笑った木佐さんは、小さな手をジーンズの内に滑り込ませてくる。探り当てられた箇所を、最初はやんわりと、時々きゅっと力を込めて擦られる動きに、自分の呼吸が荒くなるのがわかった。 こんな細くて小さな体、はねのけてしまおうと思えば出来るのに。俺の手首を拘束する木佐さんの左手の力だって、さほど強いものではない。なのに、どうしてだか木佐さんがゆらりと笑うのを見ていたら、俺の頭から抵抗の二字がすっぽりと抜けてしまっていた。 この人の手は、海みたいに捉えどころなく動く。寄せては返し、時に凪ぎ、時に大きく波打つ。そうして追い立てられる内に、木佐さんの手の中で欲望が泡みたいに弾けた。 ようやっと離れた細い手の主は、白濁の散った手をひらひらと振ってから、口寄せる。 「早いな」 右の掌に付いた白濁をちろりと舐めた木佐さんにくすくすと笑われた。 やたらゆっくりと自分の指を順に舐める木佐さんの仕草に心臓が早鐘を打ち出して、そのせいでまた抵抗をするタイミングを逃してしまった。 2012.06.05 小ネタより移動 |