唯一無二 | ナノ
「千秋、好きだ…」
「………もう…トリ、…いい加減、しつこい…ってば……!」
執拗な愛撫と、何度も繰り返される「好きだ」と云う台詞の両方に文句を言ったつもりだったが、羽鳥に止まる気配はなく、吉野の耳に唇を近付けてまた「好きなんだ」と囁いた。背筋がひっきりなしにぞわぞわとして、兎にも角にも落ち着かない。

初めて体を繋げた時は無理やりだったことを、羽鳥は今も気にしている。恋人になった今では、吉野の体に過度の負担をかけるようなことはしない。自分は全然余裕が無さそうな癖に、肝心な時はいつも「いいか?」と尋ねて吉野に決定権を委ねる。そんな余裕の無い羽鳥の表情を見る度に、吉野は胸の奥が締め付けられるのだけれど…羽鳥は気付かない。
今日の羽鳥は訪ねてきた時からどことなく不安げで、今腕の中に居る吉野は本当に現実なのかと確かめるように触れてきた。「本当にいいのか」と思い詰めたように聞いてくるから「いちいち聞くな、雰囲気で察しろ」とは言ったものの、もしかしたら羽鳥は今何かに悩んでいて、その不安を埋めるように触れてきているのではと吉野は思う。

(…そんなに不安にならなくてもいいのにさ)

吉野には羽鳥以外の同性とこういった行為に及ぶことなど考えられないし、もし羽鳥とするのが嫌だったら、とっくの昔にぶっ飛ばしている。実際に柳瀬のことは殴って拒んだのだし。
嫌いになんてなれないから、好きだから一緒にいるのに。
それが羽鳥には中々伝わっていなくて、歯痒くて、もどかしい。そんな吉野の気持ちを分かっていない羽鳥は、恋人同士だというのに自分に自信が無さ過ぎやしないか。…いや、甘い台詞を殆ど言えない吉野のせいかもしれないが、長年幼なじみをしていたから羽鳥はそのことは重々承知しているし。

羽鳥は、吉野がいつか離れるかもしれないと思っている節がある。でも吉野には、羽鳥のいない未来が考えられない。だから、あの時告白をして吉野の前から去ろうとした羽鳥の手を、離せなかったのに。
吉野は、羽鳥からしたら呆れるくらいに脳天気に未来のことを考えていて、これから先何年もずっと一緒なんだろうと、確信すらしている。
羽鳥が後ろ向きな時でも、吉野は前向きで。吉野が考えなしな行動をとった時には、羽鳥が諌めて。これまでもこれからも、きっと変わらない。
吉野はそれでいいと思っている。いつでも二人で一緒に居るんだから、足して割って丁度良くなればいいのだ。

だから、今は沈んでいる羽鳥の安心した顔が早く見たくて、普段なら言えないようなことを口に出す。散々焦らされて火照った頭のせいなんだからなと、頭の中で言い訳をしながら。



「…なあ、トリ」
羽鳥の頭を引き寄せて、耳元に唇を寄せる。
「俺も…トリのこと、ちゃんと好きだよ」
小声で告げると、ガバッと顔を引き離した羽鳥は目を見開いて、吉野の顔をまじまじと見つめる。それから、息が苦しくなる位に力一杯抱き締めてきた。











ネガティブ羽鳥とポジティブ千秋。
割れ鍋にトリチア…じゃなくて、割れ鍋に綴じ蓋な二人が書きたかったんです。
2011.09.06
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