ライアー | ナノ

嫌よ嫌よも好きのうちという言葉があるが、こいつ程その言葉が当てはまる奴もいまい。
口では嫌いだと言っていても、ふと目が合えば顔が赤くなる、二人きりになると此方まで心臓の音が聞こえそうなくらいにドギマギとし出す。これでどうしてお前が俺のことを嫌いだと思えるのだ。
嫌いと言って相手の関心を引こうとする芸当ではない。そんな恋愛スキル、こいつには備わっていない。溢れかえりそうな自分の感情に戸惑って、それで元凶の俺と距離をとろうとしているのだろう。…かといって大人しく引いてやるつもりは毛頭ないが。

―――けれど、まあ。口では素直になれなくとも、もう少し行動で素直になればいいのに。
内心で溜め息をついていると、靴も脱がずにもつれ合った玄関先で、無理やり引き結ぼうとした小野寺の口から堪えきれない吐息がまた漏れ出た。しまった、といった様相で、小野寺が急いでくっと唇を噛む。
ああ、馬鹿。そんなに噛んだら、血が出てしまうだろうが。
咎める前に体が動いていた。じわりと赤が滲んだ箇所に舌を這わせると、頭に血が上りでもしたのか、余計に鉄の味が広がった気がする。小野寺が跳ね上がった。
「な、何するんですか…っ!」
「何って、見ての通りだけど」
ぺろりと舐めた小野寺の血は、すぐに舌の上に溶けて無くなる。
「我慢して口を噛むから血が出るんだよ。声、出せ」
「…………っ!」
真っ赤な顔できっと睨まれる。差し詰め『恥ずかしくて出来ません』と言ったところか。
出来ないことはない癖に。もっと責めたてたら、くすぐったい喘ぎが出てくることはもう知ってる。
「……高野さんなんて、嫌いです……」
「嘘つけ」
嫌いな奴にここまでさせるのを許すような奴ではないことも、知ってるし。……けれど、口では嫌だとしか言わないのも分かっているから、余程素直な反応を見せる体の方に直接尋ねるように触れることにした。










2012.04.01
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