春の子供 | ナノ
身体の芯から震えるような冷たい風も、体温をじわじわと奪っていく寒さも、いつの間にか和らいでいて。
ああ、もうすぐ春がやってくるんだな。



「………あつい……」
身体にのしかかる重みを感じながら、分厚い布団の端を掴んで、うめく。
最初は、こうしているのも温かくて良いかなとも思ったのだ。高級マンションの広い間取りは、風の通りもいいので夏場は快適。しかし今の季節では、暖房設備は各部屋完備されているものの、どうにも寒く感じるから。だけど、ぬくぬくと温かい現状が、今は少し煩わしい。
原因は、隣に眠るこの男。ウサギさんがのしかかっているからだ。

昨晩のウサギさんは、「寒い」と俺をベッドに引きずり込むやいなや、人を抱き枕みたくぎゅーっと抱えて、俺の「勝手に人で暖をとるな!」という抗議も聞かず、そのまま眠ってしまった。いつものウサギさんなら、ベッドの中なんて如何にもセクハラ行為をしてきそうなものなのに、何もされなくて拍子抜けした。
…いや、別に何かされるのを期待していた訳じゃないんだけどさ!………けど、白い顔にくっきり浮かんでる隈を見たら、きっと疲れているのだろうな、と思って。
がっちりと回された腕は緩まず、無理に抜け出そうとしたら起こしてしまいそうで忍びない。だから、俺もそのまま寝てしまった。

(―――しかし、俺って鈴木さんと同レベルなのかな…?)

ベッドの端に投げ出された熊のぬいぐるみに視線を向ける。いつもならウサギさんの腕の中に居る鈴木さんは、今は俺がそこに収まっているので隅に追いやられて、どことなく寂しそうにも見える。子供に飽きられた玩具みたい。
…子供、といえば。毎晩熊のぬいぐるみと一緒に寝るウサギさんは、それこそ子供みたいかも。
一人寝が寂しくて、ぬいぐるみを手放せない子供。もしかしてウサギさんは、子供の頃からぬいぐるみを抱いて眠っていたのではないかな。ウサギさんの詳しい家庭事情は知らないけれど、偶に聞くウサギさんの思い出話にはウサギさん以外の人物は滅多に登場しないから、いつも一人で居ることが多かったのかも。
そう考えると、いつもウサギさんがベタベタと触ってくることにも頷けなくはない訳で。人恋しいのかな、しょうがないな、なんて思ってしまうのだ。こんなこと、ウサギさんに知られたら調子に乗って色々な諸々がエスカレートしそうだから、秘密だけど。

ウサギさんは、静かに眠る。大きく、深く、息を吐く。暫く起きそうもない。
暑いくらいな俺と反対に、ウサギさんは少し寒いのか身を寄せてきた。隈の上では神経質そうな眉が寄せられていたので、その眉間を指で押して、灰色がかった髪に手を伸ばす。
三十近い男の頭を撫でてみたくなるなんて、おかしいかな。でもウサギさんって時々、一人ぼっちにされて途方に暮れて泣き出しそうな、幼子みたいな顔をしているんだから。抱き枕としては、至近距離でしみったれた顔をされたら、ほっとけない。
ポンポンと頭を叩くと、心なしか顔が緩んだ。花がほころぶような、とまではいかないけれど和らいだ表情に、俺はちょっぴり満足する。



寒くなんてないよ。
もうすぐ春も来るんだから。











あんまり誕生日らしくない内容ですし、寝てますが(汗)ハッピーバースデー、ウサギさん!
2012.03.03
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