一緒に飲もうよ(千秋+優) | ナノ
優の家で飲むのは久しぶりだ。そして、暖かいこたつに足を入れ、冷たいビールを飲むという贅沢を堪能出来るのも久しぶり。俺の家にはこたつがないので、こうしてこたつに入るのは、正月に実家に帰って以来だった。
「こたつ、俺んちにも欲しいな。トリは駄目だって言うんだけど」
「それは、俺も羽鳥に同意する。不精な千秋がこたつなんて買ったら、食事の時も寝る時も漫画を読む時も、こたつから一歩も出なくなるだろ」
そう断言をして、向かいに座る優が缶の蓋を開けた。俺もそれに倣い、いつも買う銘柄のビールを口に含んで、こくりと飲み下す。しゅわしゅわと弾ける二酸化炭素と、馴染みの苦味が口内に広がった。ああ、うまい。
ほっと息を吐いた俺に、優が「そう言えば、」と切り出した。
「羽鳥ってまだ風邪引いてる訳?」
優に言われて、今ここに居ないトリの声を思い浮かべた。最後に聞いたのは、携帯電話から聞こえてきた、珍しく滑舌が悪くなった鼻声。
「うん、そうなんだよ。ずっと微熱気味らしいし、咳も引かないみたいだし。
でも、周りに迷惑がかかるとか何とか言って会社は休まないものだから、なかなか治らないみたいで。一日くらい会社を休んでゆっくり治せって言ったんだけどさ、どうも上司に熱が四十度あっても仕事に来た人がいるとかで、そんなに簡単に休むのも気がひけるんだって」
「ふーん。でも、それで無理して風邪を長引かせても、却って周りに迷惑なんじゃねーの」
さらりと毒を忍ばせた優にどう言葉を返したらいいのか分からなくて、取り敢えず苦笑をした。
優は昔からトリに容赦がない物言いをする。元々歯に衣を着せない性格ではあるんだけど、どうも敢えてトリを逆撫でる言葉ばかり選んでいるのだ。
以前はそれが二人の仲の良さの裏返しだと思っていたのだけど、それを言った時に揃って顔をしかめたトリと優を見ると、どうやら俺のおめでたい勘違いであったらしい。
「それで千秋が俺んちに来た訳な」
「だってトリが、俺が見舞いに行くって言ったら『お前に風邪が移ると余計厄介なことになりそうだから、来るな』って言うし」
「それは、確かにそうだろうな」
神妙に頷かれて面白くないけれど、トリより体力のない俺が風邪を引いて原稿が遅れる方が、確かに余程トリの迷惑になる気がした。
項垂れた俺にくすくすと小さく笑った優が、携帯電話を取り出す。
「じゃあ、俺が羽鳥に見舞いのメール送ってやるかな」
「えっ、珍しい」
優がトリに気遣いをするなんて。もしかして俺の知らないうちに、トリと優は仲良くなっていたのだろうか。だとしたら嬉しいんだけど。
「『羽鳥が居なくて心細いので、千秋が今日は俺の家に泊まりたいって言ってる』
………よし、送信、っと」
「ちょ、優、誤解されるような文面にするなよ!……いや、あながち間違ってないんだけど…」
俺がごにょごにょと口ごもっても、悪戯っぽく笑った優はまた携帯電話のボタンに触れる。
「じゃあ、正直に書くか。
『羽鳥が居ない間に珍しく料理をしようとした千秋が、皿やら鍋やらを盛大にひっくり返して片付けられなくなったので、俺の家に逃避をしに来た』
…って。羽鳥がキッチンのあの惨状を見たら、多分熱上がるぞ?」
がくりと机に突っ伏した俺に、優は益々目を細めて笑うばかりだ。きっと優は今後のトリの反応を予想して面白がっている。
俺も目に浮かぶ。割れた皿や散乱した鍋を見て青筋を立てて説教するトリが………ああ憂鬱だ。
「どうすんだよ、あのキッチン」
「どうしよう…?」
「三十になろうという男が、キッチンの片付けが出来なくて途方に暮れて投げ出した末に『どうしよう』じゃねーよ」
「じゃあ、優、片付け手伝ってくんない?」
「やだ。そういう面倒なお願いは羽鳥にしろ」
そう言うだろうと思ったけど。しっかりとしたこの友人が、俺のどうしようもない甘えを聞いてくれることは少ない。
「羽鳥に会えなくて寂しいからって、慣れないことするからだろ」
「…ち、ちがうっ、俺は別にそんな…!」
「はいはい。羽鳥、早く風邪治るといいな」
「…治って欲しいんだけど、治ったら説教が待ってるんだろうな…」
頷いた優に、つい溜め息が漏れた。
正直に言うと、トリには会いたい。しかし会いたくない。まるでテストで0点をとってしまって家に帰りたくない小学生のような心境なのだ。
また出かけた溜め息の代わりに、缶に残っていたビールを飲み込んだ。

…けれど、やっぱり会いたい気持ちに軍配が上がりそうなので、明日あたりにお見舞いの品とお説教のネタを抱えて、トリの家に行ってみようかな。











2012.02.15 小ネタより移動
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