高野さんと木佐さん(もも様より) | ナノ

「ちょっと木佐、飲みにいくぞ」そう高野さんの誘われるのは久しぶりの事。関係を持っていた時期があるだけにお互いの恋人が出来てからは本当に業務上でのやりとりしかなかったから、個人的に誘われるなんて珍しい事がまたおきたものだ、と思いながら周りを見渡せばみんなもそう思っているらしく驚いた顔を見せた後、自分の仕事に戻る。俺は短く「わかった」と返事をしてなんの話があるのだろうと考える。律っちゃんと上手くいってないから相談?そんな事はないはずだ。だって初めの頃は反発ばかしていた律っちゃんも最近ではめっきり高野さんに懐いてしまって、関係を知る俺から見たら上手くいったんだな、と思えるほど甘ったるい空気を持っている。多分、他のやつらは気がつかないだろうけれど些細な会話や気の使い方で知っている俺は分かってしまうのだ。どうやってあんなに反抗的だった律っちゃんを手に入れたんだか、その経緯を知りたいと思ってしまうのは邪推なのだろうか。でも律っちゃんも満更ではない様子。だって初めの頃から高野さんを意識してるの丸わかりだったもんね。お互い初めて会ったときには気がつかなかったみたいだけど、まぁ10年も経っていたら普通気がつかないのが当たり前だろうけれど、それでも気がついた後からの二人の関係は見ていて面白いものだった。ずっと好きだったのはお互いなんだね、と一人納得。引きずっていたのはお互い様だったのだ。幸せになればいいと願っていた自分がいたけれど、本当に幸せになってしまうとなんだかなと思ってしまうのは俺のわがまま。一時期だったとは言え高野さんは俺のものだったのに、なんてちょっと嫉妬じみた思いを抱いてしまうのは仕方ないだろう。でも俺も雪名がいるのだ。年下で可愛いところが沢山ある俺の王子様。うん、前の関係が不自然であって、俺たちの今の関係が自然なんだと納得して仕事に取りかかる。





今日の仕事を終えると高野さんが「木佐行くぞ」と声を掛けてくる。その時少し律っちゃんの目が俺に向かって嫉妬のようなオーラを出していたのに気がついて、ごめん、と内心で謝る。これはもう昔のような関係じゃないから律っちゃんが心配するような事は一つも起きないよ、と申し訳なさそうな笑みを向けると、律っちゃんがハッとしたような表情を見せて、申し訳なさそうな顔をしてくる。無意識だったのか、それはそれで恐ろしいと思いながらコートを羽織り高野さんとエレベーターを降りる。

肩を並べて歩くけれどもう昔のような甘い空気はない。だってただの上司と部下。それぐらい割り切れる関係になったのはお互い恋人が出来ているから。よく付き合った男とは縁を切るという女性の話を聞くけれど、俺たちは仕事で繋がっているからそれは無理な話だし、あの過去は今となっては甘い思い出の一つだから今更騒ぐ事でもない。あぁあんな事もあったな、と思い出す程度の話だ。嫌いじゃなかったんだよ、と付け足しながら。相変わらず俺の方が高野さんより身長が低いので小幅が合わないけれど、それを気に掛けてくれて俺に合わせてくれてる辺り、高野さんの優しさを感じる。この人は俺に甘い。だけど絶対的な距離が壊れる事は無い。心地よい関係だな、と思った。

居酒屋に入ってつまみを注文してビールがくるのを待つ。テーブルの下で足が絡み合う事も、テーブルの上に置かれた手に手が重ねられる事ももう無い。過去の事、と割り切っているからそれに寂しさを覚える事はないけれど、なんだか新鮮で笑ってしまうと高野さんも表情をくずして笑った。あぁ、この人はこんな笑い方をするようになったのだな、と思い出とは違う微笑み方に律っちゃんの存在の大きさを思い知る。

「高野さん、笑顔が変わった」
「それはお前もだろ」

そう指摘されて初めて気がつく。幸せそうな笑顔しやがって、という言葉に高野さんだってそうじゃん、と言い返す。そこでまたお互い笑ってしまう。昔関係を持った時には笑顔の中でもお互いに少し切なさを含んでいたのを覚えているから、今が幸せなんだなと思う。
頼んでいたビールが届いて、乾杯、としながらそののど越しの良い液体を一気にあおると「いい飲みっぷりだな」と高野さん。「だってこうして二人で会うのも久しぶりじゃん」というと「そうだな」との返事。別に避けていた訳ではない。ただお互いに仕事と恋の両立で忙しくて、過去の相手に構っている暇がなかっただけの話だ。だから久しぶりのこの感覚にアルコールも混じって気分が上昇していくのが分かる。

「それで、なんで俺を飲みに誘ったの?」

枝豆を食べながら聞くと高野さんは「お前の最近の様子を知りたいと思って」と答えてくる。「仕事で毎日あってんじゃん」というと「そうじゃなくて」との返事。

「恋人とはどんな風に過ごしているのか気になっただけ」

そういって笑ってくる高野さん。おお、それは俺もぜひ高野さんから聞きたい話でもある。これは惚気の為にもうけられた席なのか、と納得して話し出す。

「俺の恋人、雪名っていうんだけどさ。もうほんと少女漫画から飛び出てきたんじゃないかというぐらいの王子様っぷりで。オーラがはんぱないの」

そういうとくすくす笑う高野さん。「お前、顔が良いやつ好きだもんな」という返事に「今は雪名全部が好きなの」と返すと「まぁ俺も律の全部が好きだけど」と意味の分からないところでの意地の張り合いが行われる。

「年下で学生だからなかなか時間が合わなくて会えない代わりに、お泊まり会と称した同棲ごっこみたいな事して今は家にいるんだ」

そう言いながら「今日は外で飯くってくるから夕飯はいらない」と送ったメールに対しての返事が「わかりました、楽しんできて下さいね」というものだったのを思い出して少し申し訳なくなる。昔の男と会っているといったら案外嫉妬深いあの王子様は怒るだろう。だから秘密。大人には秘密の一つや二つぐらいあるんだよ、と思いながら、冷や奴をつまむ。

「そうなのか、なら毎日家に帰る時嬉しそうなのが納得いくな」

そう言いながら唐揚げをつまむ高野さん。

「それは高野さんも一緒でしょ。律っちゃんと両思いになれたんじゃないの?」

そういうと「うーん」と少し考えてから高野さんが話し出す。

「両思い、って言われたらそうなんだけどあいつ素直じゃないからなかなか好きって言ってくれないんだよな」

そんなところも可愛いけれど、と堂々と惚気だした高野さんに意味の分からない対抗意識が芽生えて俺も話し出す。

「雪名も俺に甘すぎるっていうか。いつも優しくしてくれるから愛されてるなって感じる」

そういうと吹き出す高野さん。失礼な、と思うと「愛されている」っていえば、と言葉が繋がれる。

「あいつ俺の誕生日に何送ってきたと思う?」
「え、何。律っちゃんが誕生日プレゼントあげた事さえもびっくりなんだけど」
「まぁな素直じゃないからな。そう思われても当然だろ。つーか栄養補助剤と胃薬とかの詰め合わせとか送られてきたんだよ」

そういって笑う高野さん。うわー律っちゃん、それは律っちゃんが日常で消費しているものと思って構わないよね?だって高野さんとか俺とか、確かに薬に頼ったり栄養補助剤に頼ったりすることはあるけれど律っちゃんほどじゃないもん、と思っていると「な、素直じゃないだろ」と言ってくる高野さんの頷き返す。

「でもだいぶあのツンツンした態度が無くなってきたじゃん。高野さんに対して少し独占欲も覚えているみたいだし。今日飲みに誘われた時嫉妬深い目でみられたよ」

そういうと高野さんが驚いたような顔をして優しく笑った。

「まぁな、初めの頃と比べたら随分素直になってきたよな。最近では抱く時も抵抗しないし」

そういう高野さんに「えっちー」と冷やかすと「お前が言うか」と言われた。

「そういう木佐も雪名ってやつとは良い感じなんだろ?」
「うん、雪名は男相手は初めてだったけれど、俺が指導しているし」

そういうと笑われた。伊達に男に抱かれた回数多いの舐めるなよ、と思いながら「高野さんはえっち上手かったからなー律っちゃんも喜ぶでしょ」というと「ああ、可愛い姿を見せてくれる」と満更な笑みを浮かべる。もうらぶらぶじゃん、と思いながら「そういえば」と言うと「なに?」と聞き返してくる高野さん。

「雪名って美大生なんだけどこの間俺の絵を描いてくれたらしいんだよなー」

別に悪い訳じゃないけれど恥ずかしい。
そういったら高野さんが「好きな相手を書きたいっていうのは普通だろ」と言ってくる。「まぁそうなんだけど、それが高評価とかきくと居たたまれなくて」と返事を返すと「お互い良い刺激になってるんじゃないか?」との返事。あぁそうか、俺も仕事頑張るようになったもんな、と思い、「高野さんこそ愛情があるのは分かるけれど律っちゃんに小学生みたいな絡み方いい加減やめたら?」と聞くと「あいつは反応が素直だから面白い」との返事。愛されてるけれど、なんだかひねくれてるのが高野さんらしいと思いつつ、ビールを飲む。


そんなとりとめの無い話をして酔いが回り始め、だいぶお腹もいっぱいになったところで高野さんが「そろそろ出るか」と言い出す。それに素直に頷きながらコートを着て、精算を一緒に済ませると外から冷たい風が吹いてきた。それに寒さを覚えて身震いすると「相変わらず木佐のそういうところが可愛い」とか言ってくる高野さん。「浮気しちゃう?」と冗談を言えば「まさか」との返事。それに笑いあって、本当ならもう一件ぐらいはしごしちゃうところを「雪名という相手が待っているんだろ、嫉妬させたら怖いしな」と言ってくる高野さんに「律っちゃんだってあんまり遅くまで俺と飲んでいたとか聞いたら嫉妬されそうで怖いから」と返事を返して、また二人で笑い合う。

そして家路につくために、駅への方角へ向かって歩く。手は繋がれる事はないけれど、昔の関係より今の関係の方がなんだか距離が近くなった気がするな、と思っていれば「ホテルでも行くか?」そう冗談を言ってくる高野さん。それに笑いながら「行くか!」と返事をするとくすくす笑われる。そんな些細なやりとりが楽しくて、もう少し一緒に居たいと昔の関係を望んでしまうけれど駅につけばお互いの家に向かう電車にのるため別れる。それがちょっぴり惜しいと思いつつも俺の家には大好きな雪名が待っている。そして高野さんの家のお隣には高野さんが愛してやまない律っちゃんが待っている。

それが今の俺たちの幸せなんだ、と思って、俺を待っている雪名に早く会いたいと思いながら家路を急いだ。











「Capri」のもも様に頂きました!
相互記念に何か書いて下さるという、もも様の嬉しいお言葉にガッツリ食いついて、リクエストさせて頂きました。図々しくてすいません…でもでも、こんなにも素敵なお話を頂いてしまって、幸せですv
もも様の書かれる高律も雪木佐も高木佐もどれも大好きなので、『高律&雪木佐前提で、高野さんと木佐さんがお互いの恋人について語る話、ほんのりと過去の高木佐の関係をにおわせる要素も含まれていたら嬉しい!』という欲張りなリクエストをしてしまったのですが、私の願望を丸ごと叶えて下さったもも様にときめきが止みません。
もも様の書かれる高野さんと木佐さんの微妙な距離感が堪らないです…!嫉妬する律っちゃんも可愛くて可愛くて、高野さん不在の今の内に飲みに誘いたくなりました。
もも様、どうも有り難う御座いました。改めて、これからも宜しくお願いしますね。
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