無力を握りしめて


「ごめん…ヴォルフ」

その黒い瞳は泣き腫らしたのであろう、赤くなっていた。

ユーリの私室で、僕とユーリは寝台に腰を下ろし向かい合っていた。

握りしめた手は温かく、なぜこの手はあいつだけを求めているのだろう、と思って悔しくなった。

涙を零せば高貴な黒は戸惑いに揺れ、けれど真っ直ぐに僕だけを見つめている。




なぜ、あいつなのだろう。




僕はおまえを、幸せにしてやれるのに。
おまえの傍を離れないし、おまえを悲しくさせない。


命をかけて守り、生涯愛するのに。


「ごめんな…本当に」

肩を抱き寄せられて、抱きしめられる。寝台が、ぎしりと音をたてた。

あやすように頭を撫でられて、懐かしさを感じる。
その懐かしさの理由を理解し、また涙が零れた。


「……へなちょこ。あんなやつ、より、…僕がいいに、決まってる」

「…うん、そうだよな。おまえ、かっこいいよ。…ごめんな、ヴォルフ、…なんでだろうな…」


消え入りそうな語尾と鼻をすする音。

ユーリは、僕を思って泣いているんじゃない。



もう会えない、あいつを思って、
涙を零しているんだ。



「泣くな、へなちょこ…」

「おまえだって泣いてんじゃん!…なあ、ヴォルフ…」





会いたいよ。





言葉は声にならず、吐息だけが漏れた。

額をユーリの肩にこすりつけるように、顔をうずめる。


高貴な黒髪の、頭をかき抱いて力の限り抱きしめた。




どうだ、羨ましいだろう。

おまえはユーリに触れられないからな。

僕は、おまえにユーリを渡す気はないぞ。

ずっと傍にいるし、ずっと隣にいるし、ずっと見守るんだ。









ユーリには、幸せになってほしいんだ。


end








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