絡んだ糸は解けないままに


※ 今色々と取り上げられている国の古いしきたりを含んだ勝手な設定となっております。
※ 死後設定ですので、閲覧の際はご注意ください。シリアスではありません。
















ちょっと待ってよ。

視線を下げて目が合った少年は、半分笑いながら口元を引きつらせる。


「あんたがもしかして、俺の結婚相手…?」

「おそらくは。小指、繋がってますね」

「えー…俺、結構普通の男だよ。いくら長い間お嫁さんを迎えなかったっていってもさ…俺、別にそっち系じゃない…」

「俺もですよ。ただ、お互いタイミングが悪かったんでしょうね」

「隣の村じゃなくて、もうちょっといけば見つかっただろ…。腐るのとかはこの際我慢して…」


この世の終わり、いやある意味もう終わってしまっているのだが、目の前の少年は泣き出しそうに眉を下げ肩を落としていた。



手のひらを開き閉じ、袖をまくってみる。動きにつられて少年が気づき、覗きこんできた。
脇腹の痛みも、灼けるような喉の痛みもない。
視界も良好、引き摺っていたはずの脚もしっかりと地面を踏んでいる。


「おふくろってそういうところあるんだよな…俺のことを思ってはくれてるんだけど、なんかこうもうひとつ足りないというか、違うというか…」

「ああ、名前を言っていませんでした。俺は、コンラート・ウェラーといいます」

「コンラッド、さん?」

「発音はどうとでも。敬称はいりませんよ。貴方は、ユーリさんでしょう。双黒の、…世が世であれば、一国の主だったという」

「あーあーそんなのいい。ただ黒目黒髪が珍しいだけだろ。それに、ユーリでいいよ。年上の人に丁寧な言葉遣われるの、むずがゆい」


顔の高さまで、彼は手を持ち上げる。
それにつられて俺の手もひかれ、二人の小指を"赤い糸"が結ぶ。





子どものしきたりを、自分まで行われるとは思わなかった。
戦地から生まれた故郷へと帰り、ここで死ぬことを選んだことがそもそも間違いだったのか。頭の隅で、最後に全てを任せた幼馴染が笑う。





現世で幼くして死んだ子どもが、せめてあの世でも独りきりにはならないように。


そのような親の切々とした願いが、こんなしきたりをうんだ。



子どもが死ぬと、近くの村で同じように死んだ未婚で年の近い異性の子を合葬してやる。

あの世で添い遂げるため、お互いの小指を赤い糸で結んで。




良いしきたりだとは思う。けれど自分も少年も、もうそのような年ではない。


「どうせなら、って贅沢なこと言ったら罰があたるかな」

「なんです?」

「女の子がよかった」

「ああ」

「反応薄いね」

「こちらでは、同性同士は珍しくないんですよ。あ、俺の村では、って意味です」

「…聞いたことある。じゃあ別におかしくないのか」

「でも、女の子がよかったんでしょう?」

「あんたもだろ?」

「恐れ多くも、ユーリみたいな見目麗しい方が相手で良かったと思っています」


正直な感想だった。
何度か双黒は見たことがあるが、これだけ見事な澄んだ黒は見たことがない。
少年特有の言動もうるさくなく、正直さが出た言葉遣いには嫌味も全くない。意志の強そうな丸い瞳は輝き、頭の回転が速いことは既に理解した。


「まーたまた…あんたみたいなイケメンにそんなこと言われたら、そっち系じゃなくてもぐっときちゃうよ。でも俺も、あんたで良かったかもしんない」


垂れる糸を器用に小指に絡めていき、そのまま俺の小指に触れる。ゆびきりをするかのように。けれどそれはかなわない。
彼は小さく笑って、それでも不格好なゆびきりをした。


「何の約束?」

「んー?これで誓えるかは分からないけど。でも赤い糸がついてる方が、なんだかいい気がしてさ」





俺は彼の名前しか知らない。



どうして死んだのかも、生前何をして何を思い、誰を思っていたのかも。





けれどこれで、貴方と俺は離れられない。







「これから、よろしくおねがいします。どうぞ、すえながく」








ゆびきりげんまん。
うそついたら、はりせんぼんのーます。


ゆびは、きらない。


end










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