アイビーの約束


※ 監禁ネタですので、苦手な方はご注意ください。







壁に手を添えて、階段をおりていく。
等間隔にはめこまれた丸い窓からは夕焼けが見えて、その眩しさに目をそらした。


錆び付いた薄い扉の向こうからは何の音もしないから、今日もささやかな祈りをこめる。


小さな鍵穴は縦にみっつ、開けるのはもう、ひとつだけ。
大袈裟な程音をたてる扉を細く開けた途端、橙色の光が隙間から零れた。

けれど、それも一瞬。

次の瞬間には、部屋の中の小さな窓から降り注いだ夕陽はすっかり光を失った。


「ユーリ」


左足の鎖を鳴らしながら、コンラッドは俺の名前を呼んだ。
小さな小さな真四角の部屋に、俺の恋人はいる。


むき出しのコンクリート、粗末なベッドに木製の机。
本だけが床に転がっていて、それは俺が置いていったそのままの位置だった。


「灯り、つけるね…ごはん、食べていいよ。はい」

「ありがとう、ユーリ。…いただきます」


教えた通りに手を合わせるコンラッドに笑いかけて、天井から垂れ下がるランプをつけた。
微かな光は炎のように部屋を照らし、影をつくる。


「髪の毛、切ってあげるね」


顔ほどもあるハサミを取り出して、伸びた襟足を切っていく。くすぐったいのかコンラッドは低く笑って、そのたびに足元から金属音が響いた。
さびた鎖はきっと、もうすぐ朽ち果てるのだろう。


「ごちそうさま。美味しかったです」

「もうちょっと、レパートリー増やすようにするから。肉とか、もっと柔らかくできるんだって。野菜も、ようやく市場に食べれそうなものが出てきたらしいし、…俺のご飯を持ってこれたら、一番いいんだけど…」


見聞きし知った情報が、彼に伝えたい一心で口からとめどなく溢れる。

変わらずに微笑む彼は、誤解されたくないと情けなく焦る俺を理解しているというように、そっと俺の頬を撫でた。


「"犬"を飼うのは大変でしょう?」

「…あんたを、犬だなんて思ってない。"恋人"だから、あんたはここで生きてる」

「だから、こんな鋏はいらない」


枕の下に隠したハサミを、コンラッドは引っ張り出した。

そのままケースにしまって、俺の手に渡す。しっかりと、握らせて。


「本もいりませんよ。読まないし、貴方の事を考えていたら日が暮れる。それに、まだかまだかといつも貴方が来てくださるのを待っているから、残念ながら暇ではないんです」


笑っていた。
何も変わらない、嘘もない、ただ俺を愛しいと見つめる瞳を細めて。



錆びた鎖は、ハサミで叩き壊せば安易に壊れる。
小さな窓は、本を投げれば人一人位通れる。



自由へと続く可能性をすべて潰して、コンラッドは俺を愛してると言った。







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この部屋に閉じ込められてから、俺はようやく生きられたのだ。

確かな愛だけをこの胸いっぱいに吸って、朝から晩まで彼を思い、夢では彼を追いかける。


俺を手放そうとする彼を拒絶して、いつまでも純粋な罪悪感を背負わせておこう。
それが鎖となるならば、俺はそれを離さない。



愛しい人を捕まえた。




俺には彼の足首に鎖が見える。


end








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