Why didn't you refuse me?


細い顎を指で掬うと、困惑気味に揺らめく瞳がついに伏せられた。
所在なさげにシーツの上を這っていた手は、ぎゅうとシーツに皺をつくる。

うっすらと開いた唇を舌で舐めると、熱い吐息が止まる。


あれほど呼吸を止めるなと注意したはずなのに。

口唇を啄んでその柔らかさを堪能していると、彼は首を振ってキスから逃れた。
文句を聞く前に、露わになった首筋に吸いつく。

舌を這わせて、動脈を押し潰すようになぞる。
こうすれば大抵は、本能的な自殺衝動に背筋を痺れさせるのだ。




大丈夫だろうと思えば失敗し、どうにでもなれと思えばどうにでもなる世界です。




従って経験も数だけ増えていき、恋だの愛だのというような一見本質的なものは一向に分からないままなわけで。






床に放り出した衣服を横目に、温かい粘膜に息をつく。

気付かれないように笑って見せれば、彼は泣き出しそうに眉を歪めた。
食いちぎられそうな締まりは、皮肉にも今までの女とは比べものにならない程だ。
馴染ませるように内壁を緩くこすりあげれば、こちらが限界を迎えそうになる。

慎ましく天を向く彼の中心は、覚えたばかりの快感にふるふると震えていた。
白濁に濡れた手のひらで上下に擦れば、若いそれはすぐに反応を示す。


「きもちいい?ユーリ」

「ん、ん…」


たががはずれたようにこくこくと首を振り、俺の腕に爪をたてる。

腰をまわしながら押し進めると、ようやくぱちんと肉同士がぶつかった。


「ぜんぶ、」

「ええ、ぜんぶ。動くよ」

「待って…どくどく、してる」


俺の形しか知らないここが、嬉々として絡みついてくるのだ。



優越感に支配された脳は、俺をただの性に溺れる男へと変える。







戦場は嫌いだし、痛いのも嫌いだし、いつだって不満を抱いているよ。


誰かを無性に傷つけたくもなるし、逆に誰かを自分に溺れさせたくなることもある。



性欲だって、女にしか反応しないかと思えばこうやって男に勃っている時点で人並み以上だと自覚した。




それでも貴方は、俺のことがすき?




傷だらけのこの身体を見て、貴方は言葉を失った。

斬り傷や刺し傷だけではない、身体中に散らばる忌まわしい跡。
およそ貴方の生まれた国では見ることのできない、酷く現実離れしたものだったのだろう。




それでも貴方は、俺を愛せる?




傷つけられるだけでは、生きていけない。


この言葉の意味を、どうか胸にしまっておいて。







「あいしてる…っ…」


腰をふって前立腺をごりごりと突き上げる合間に、たまらないとでも言いたそうに彼はその言葉を吐き出した。



たまらないのはこちらの方だ。


噛みしめて赤くなっている唇を貪り、垂れる唾液も舐めあげて無理やり嚥下させる。






あいしてる?貴方が、俺を?




嘘でしょう。冗談。



そうなればいいと、ずっと思っていたんです。


叶うはずがない。






ユーリ。



俺はなぜ生きているのでしょうか。


最初はきっと、彼女の魂をもつ貴方を見守り護るためだったはずなのに。






愛しているよりもずっと、ずっと。


唯一恥じるべき感情をのせた素晴らしい名前は、ゆっくりと己の唇から零れた。



ユーリ。



ああ、なんて素晴らしい名前なのだろう。




腰をうちつけるよりも、貴方の名前を呼ぶことの方が快感が背筋を駆け巡るのだ。


end










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