駆け引きなし!




いつも通りの、何の脈絡もない会話にはもう慣れた。



俺なんかになぜそんなに興味を持つのかは分からないが、思案するふりをしていくつも逃げ道を作っておく。


「泣いたことなんて、何回もありますよ」

「うっそだー。あんただけは、どんなことがあっても泣かないと思う。いや、薄情とかじゃなくてね。だから、うーん…女の人に泣かされたことある?」

「…フォンウィンコット卿に、かかと落としをされて」

「ちがうちがう!こうー、男と女の痴情のもつれというか、なんというか…」


つまり、俺がこっぴどく傷つけられた話を聞きたいと。




俺自身もあまり人のことは言えないが、ユーリのように恋人の過去の恋愛話を聞きたがるというのは稀有なのではないか。
女性としか経験はないが、このような話ではあまりいい顔をしなかったような気がする。


あいにく、会話の種になるような経験は持ち合わせてはいない。
曖昧に笑い謝罪を口にすると、ユーリは細い眉を残念そうに下げた。



「なんだー。さすがのコンラッドでもないのか。なんだ」

「どうして聞きたいの?」

「だって、あんたって謎だもん。ただ単に興味があるっていうか。それにさ、あんたが今までどんな人と付き合ってきたのか気になる」

「それは、もしかして独占欲?」

「んー…好きな人が好きだった人が、素敵な人だったら嬉しいじゃん。独占欲って分かんない」




やっぱり。
何でもないことのように言ってのける彼は、きっと自分の発した殺し文句に気づいてはいないのだろう。


苦笑をかみ殺している間にも、彼は独占欲、と小さくうなる。
ソファの上で膝を抱えたまま、小さな唇を尖らせている。


すると急に瞳が輝いて、ユーリは口を開いて考えるように天井を仰いだ。



「あー、そうか。うん、なるほど」

「なんです?」

「ふふー!俺はあんたの泣かせ方を知っています!」


膝を崩して、俺のほうに身を乗り出して。
いつものように得意げな表情を満面にあらわしながら、ユーリはにっこりと笑う。





俺には考えもつかないような、アイデアをひとつその頭に。




「結婚しようよ!」





冗談?それとも本気?



どちらにしても、貴方の勝ちだ。


end



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