解氷は失う


夜を切り裂いたのは大きな鳥だった。


分厚い雪雲に覆われたこの国は
その常闇と極寒のせいで
生き物は滅びかけていた。

多くの生物が息絶えていく中、
南からやってきた一羽の大きな鳥が
雲を散らし、太陽の糸を咥え朝を与えた。

その鳥は死んで片割れになった動物達の
南の伴侶も連れてきた。

キツネには南のキツネの伴侶を。
野うさぎには南の野うさぎの伴侶を。
国の動物はそうして滅びを逃れた。

しかしどれだけ探しても
南方から来たあの大きな鳥だけは
伴侶が居なかった。
彼のように大きく、他人のために働く鳥は
この国にはいなかった。

鳥は力なく渓谷の奥に倒れた。


鳥のおかげで生まれた人間の少女は
話を聞いて会いにいった。

少女は言った。



「貴方はこの国を救ったのに何故一人なのですか。」


鳥はこの小さな少女に優しく答えた。


「国が平和になったからだろう。

皆、私のことなど忘れてしまったのだよ。」


鳥はそういいながらも、大きく頷いた。
だが少女はうずくまる鳥の胸元に跪いた。


「この未だ雪に包まれた渓谷で一人は寂しすぎます。
私は貴方よりも小さく、貴方より幼い身ではありますが
私がお傍におります。きっとその為に生まれました。」

鳥はその言葉を聞いてこう思った。
私の伴侶はここにいたのだと。


鳥が安らかに眠るその時まで
少女は一緒に暮らした。
いつしか百年が経ち、千年が経った。

渓谷から国を見渡せば、
己が両親の姿はなかったが
遠い子孫達の姿はあった。

そして少女は渓谷で、神になった。



それからその渓谷には少女の神がいる。
それは今も同じ。君がやってくるまでは。



渓谷へ向かう







◎  


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -