ただ俺は…
最初はほんの少しの興味からだった、ただそれだけだったんだ。
いつだろうか、お前という存在が俺の世界に入ってきたときは
そうだな、たぶん俺は一目惚れ、というものをしてしまったのだろうな。
お前はいつも図書室にいてずっと本を読んでいたな。その本を読む姿はとても美しかった。
木漏れ日にあたり、髪を避ける仕草、本をめくる指先、その本を見つめる目、本当にすべてが美しかった。
だが一向にデータが集まらない。
…この際データはどうでもいい。
ずっと彼女を見ていたい、感じたい。
こんなにも美しい人がいれば誰もが気付くはずなのだが誰を目を向けないんだ。…本を静かに読んでいるのは今時の男にはダサい、地味、と感じるのだろうか?…俺はとても素敵だと思うが…
あぁ、今日もあいつは美しい…
…いつからだろう、お前がおかしくなったのは。
いつもお前はあいている時間という時間に図書室へ行き"何もない"ところをただただ見つめているよね。
まるで何かに取り憑かれたように、ね。
俺は前彼奴に「何を見ているんだい?」と聞いたことがある。そしたら彼奴なんて言ったと思う?
「精市には"あいつ"の美しさがわからないのか?あれほど美しい人は居ないだろう。」
って言われたんだよ。
俺には理解できなかった。だって蓮二の奴が見ている方向にはいつからあるかわからないアンティーク調の机と椅子しかないんだよ?
…何故学校の図書室にあんなモノがあるかはよくわからないけど一つだけいえるのは
蓮二には俺には見えない"何か"が見えている
って事なんだろうね。
蓮二はその美しい人に"気に入られてしまった"んだろう。
まああいつはよく図書室を利用するしその"人"は寂しかったんだろうね。
その"美しい人"は悪い人ではなければいいけど…
最近彼奴等がおかしいのだ。
柳は彼女は美しい、と幸村は蓮二ったら椅子と机しかないところに美しい人がいるって言うんだよ?…など理解できぬことを言い出す。
そこにはまず建物も人も物もない、あるのは木だけなのだが…
俺が気づいた頃には彼奴等は絡繰り人形の如く機械的な動きしかしなくなっていたのだ。
くっ…俺はもっと早く友人の異変に気づければどれだけ良かったのか、俺が気付けば今頃普通だったかもしれんのだ…
あまりこういうことは好まないが一言言わせてくれ
神様がいるならなば彼奴等を元に戻してほしい、と。
少年Sの嘆き
(おかしいのはいったい誰なんだろうね)