小説 | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▽ 一人ぼっちの王子様10


 ティアの負傷により一行は野営することになった。みな急な行軍で疲れが出ているのか会話はない。
 ちらりとルークを見ると落ち着かないのか辺りをふらふらしている。よほど、ショックだったのだろう。だが、声をかける気はない。
 レイはジェイドの横に座ってただじっとたき火の炎を見ていた。
 タルタロスでのルークの行動は聞いた。人を殺すのは初めてだったらしい。それを聞くと羨ましくもあり、憎たらしくもあった。
 ――守られて育った奴なんだな。
 小さな箱に閉じ込められてかいがいしく世話されて生きてきたんだろう。だから、危険なことはなに一つなかっただろうし、恐怖を感じたこともない。自分とは大違いだ。
 グランコクマの宮殿では王の子供たちが謀略を張り巡らせていつも優位に立とうとしていた。食事に毒を盛るなんて日常茶飯事だったし、人を信用しては裏切られる連続だった。
 そんな生活を送ってきたせいか悪意には敏感だ。だから、そういうものとは接触を避けるし、近寄らせない。まぁ、悪名が付きすぎて今では一人しか寄り付かないが。
 そのたった一人のジェイドとは仲が良いというよりは、レイが軍属にくだるならと陛下がジェイドの下につけさせたからというのが一番の理由だ。長年の信頼関係はあれど、親しさはまるでない。それにレイはジェイドが嫌いだ。
 隣にいるジェイドをちらりと見る。すると視線に気が付いたのかジェイドはいつものように笑った。
「どうしました?」
「いや、幸せな奴だなと思って」
「ああ、そうですね。このご時世で戦ったことがないというのは幸せかもしれませんね」
 少し棘がある言い方のようにも聞こえるが事実だ。
「羨ましいですか?」
 どきりとした。まるで心を読まれているかのようで気味が悪い。レイは視線をそらした。
「まぁ、あなたの場合、そのように選び取らされていましたが、今は違うはずです。八つ当たりはしないように」
 ジェイドはわかっているのだ。レイがルークのことをどう思うかなんて分かりきっている。レイは舌打ちした。
「……そんなことはしない」
 レイはジェイドのもとを離れ、ガイに近寄る。するとルークが先にガイに話しかけた。思わず足が止まる。そしてガイがもたれかかっている木の裏に隠れた。
「きつかっただろ。突然外に放りだされたんだもんな」
 ルークはうつむきがちに応える。
「俺……知らなかった。街の外がこんなにやべぇとこだったなんて」
「魔物と盗賊は、倒せば報奨金が出ることもある。街の外での人斬りは私怨と立証されない限りは罪にはならないんだ」
「おまえ、今までどれくらい斬った?」
「さぁな。あそこの軍人さんたちよりかは少ないだろうよ」
 沈黙があった後ルークが口を開いた。
「怖くないのか……?」
「怖いさ。怖いから戦うんだ。死にたくねぇからな。俺には、まだやることがある」
「やること……?」
 ガイは視線を下ろしてつぶやいた。
「……復讐」
 この言葉にはレイも驚いた。とてもそんな雰囲気がなかったからだ。ルークも驚いたのか目を丸くする。
「へ?」
「なんて、な」
 ガイはその言葉を隠すように笑った。そして大きく伸びをする。
「さて、そこで隠れて聞いている軍人さんはどう思う?」
 いたことに気付いていたのだろう。レイは観念して出てくるとルークが目を見開いた。
「お前盗み聞ぎしていたのかよ!」
「たまたま、出るタイミングを失っただけだ」
「そうかよ、じゃあお前はどう思うんだ?」
「人斬りのことか?」
 睨み据えてやるとルークは黙った。それを見てガイがレイの肩を叩く。
「まぁまぁ、どんな風に思っているかって聞いてまわってるみたいだから聞かせてやれよ」
 そんなことを聞いていたってティアがルークを庇って負傷したことは変わりない。だが、ルークのしょげた顔を見ているとますます腹立たしいのでレイは静かに尋ねた。
「お前、魔物を斬ったことはあるんだろう?」
 ルークは首を傾げる。
「ああ? そんなの道中でやってただろうが」
「じゃあ、なぜ、人は斬れない?」
「それは――」
 口ごもるルークにレイは更にたたみ掛ける。
「命の価値なんてものは人によって違うがな。そこら辺の魔物だって死んだら痛いし、しゃべらないだけで生きている。人間だって同じだ。人だからってしゃべって言葉が通じたってただの命だ。それ以上でも以下でもない」
 黙り込んでしまったルークにレイは冷めた目で見つめた。
「お前だって大切な人はいるだろう? もし敵がその人を殺そうとしたらお前はさっきみたいに殺すのを躊躇するのか? ――よく考えろ。人は自分の価値観で人を殺すんだ」
 ルークの視線がどんどんと弱くなっていくのがわかる。とっさにガイが間に入って二人に笑いかける。
「あまり手厳しいことを言ってやらんでくれ。本当にこいつは街に出たことも外に出たことも初めてなんだ」
 その言葉にレイは眉をひそめる。
「初めてだったら許されるわけじゃない。人を殺したのは事実だしそれは受け止めるべきだ」
 ガイは弱ったように頭をかく。その横でルークがまっすぐにレイをにらんだ。
「うるせぇな、わかったっつーの」
 そう言ってルークは草原に横になった。それを見ていたガイが苦笑いする。
「どうやら伝わったようだ」
「拗ねたようにも見えるが」
「まぁ、明日には答えを出しているだろうよ」
 レイはその言葉が信じられなかったが、ガイが満面の笑みで言うのでそれ以上追及できなかった。レイは木にもたれかかって座る。それをガイが以外そうに見た。
「ルークに用があって来たわけじゃなかったんだな」
「たまたまだ。――お前に謝らないといけないと思って」
「なんでだ?」
「お前を大変な旅路に巻き込んでしまったからな。すまない」
「いいさ、成り行き上バチカルまで一緒に行こうぜ? ルークはあんなだけど優しい所もあるんだ」
 レイは鼻で笑う。
「優しいと横柄さをはき違えているようにも見えるが?」
「まあ、そういう所もあるんだが、一緒にいればわかるさ」
 ガイのこの信頼っぷりは何なのだろう。余程ルークが可愛いのか、優しい言葉しか掛けない。なんだか、胸の奥から湧き上がる不満が喉を出かかったが、思いとどまった。レイは何も言わずにその場を去ってジェイドの近くで横になって目を閉じた。
 
 ***
 
 明朝、陽が照り始める前にレイは起きた。ジェイド、レイ、ガイで交代で夜の番をして魔物や神託の盾が来ないか見張っていたが、どうやら無事に夜を越えられたようだ。立ち上がって体を動かし始める。
「朝から元気ですねぇ」
 背後からかかる声にレイは振り返る。するとジェイドがこちらを微笑んで見ていた。
「日課なんでな」
「いいことです。そろそろみんな起き始めるころでしょう。陣形の相談をしたいんですが」
「それならティアが回復次第、私が前、ガイ、ティアが横、ジェイドが後ろが妥当じゃないか?」
「そうですね、私もそう思います。ただ気がかりなのが――レイのとっておき、六神将には使えないのですか?」
 レイは渋い顔をして答えた。
「残念ながらディストが私対策に物を作ったようだ」
 するとジェイドが頭に手を添えてため息を吐いた。
「まったくあれはろくなことをしませんね。では、雑魚の一掃をお願いしますよ?」
 レイは頷いた。するとティア、ガイも起き始めて、改めて陣形の説明をすると二人は快諾してくれた。後はルークを起こすだけだ。
 ティアがルークに歩み寄ってしゃがんだ。
「ルーク、起きて、そろそろ出発するわ」
 目を開けたルークがティアの腕を見る。そこには傷はない。おずおずとルークが尋ねる。
「もう、動けるのか?」
「ええ、心配してくれてありがとう」
 ルークは立ち上がってティアの背に付いていった。ジェイドが言う。
「私とレイ、ガイとティアで四角に陣形を取ります。あなたはイオン様と一緒に中心に居て、もしもの時には身を守ってください」
 ルークが立ち止まる。
「え?」
 ガイは優しく微笑んだ。
「お前戦わなくても大丈夫ってことだよ。さぁ、行こうか」
 レイも身をひるがえして歩み始めようとしたとき、ルークの声が届く。
「……ま、待ってくれ!」
 みんなが振り返る。
 ルークは手を震わせながら剣を握った。そして強い瞳でみんなを見た。
「……俺も、戦う」
「殺すのが怖いんでしょう?」
 ジェイドの言葉にルークは視線をそらした。
「……怖くなんかねぇ」
「無理しないほうがいいわ」
 ティアの言葉にルークは言葉を荒げる。
「本当だ! ……そりゃ、やっぱちっと怖ぇとかあるけど、戦わなきゃ身を守れないなら戦うしかねぇだろ。俺だけ隠れてなんていられるか!」
「ご主人様偉いですの!」
 飛び上がるミュウにルークは叩き落す。
「お前は黙ってろ! とにかくもう決めたんだ。これからは躊躇しねぇで戦う」
 ティアがゆっくりと歩み寄る。ルークにギリギリまで近づいて静かに言い放つ。
「……人を殺すということは相手の可能性を奪うことよ。それが身を守るためでも」
 ガイがルークを見ずに言う。
「……恨みを買うことだってある」
「あなた、それを受け止めることができる? 逃げ出さず、言い訳せず、自分の責任を見つめることができる?」
 ルークはティアの視線から逃げる様に顔をそらした。
「お前も言ってたろ。好きで殺してるわけじゃねぇって」
 ルークは皆に歩み寄って言った。
「……決心したんだ。みんなに迷惑はかけられないしちゃんと俺もせ責任を背負う」
「でも……!」
 ルークの決心をティアがためらった。だが、ジェイドがそれを止める。
「いいじゃありませんか。……ルークの決心とやら見せてもらいましょう」
 ガイがルークに近づいて肩に手を置いた。
「無理するなよ、ルーク」
 ルークは暗い面持ちで小さく頷いた。
 それを見てレイは少し考えを改めさせられた。ルークは精神的に弱いのではなく本当に無垢なのだ。純粋で真面目な子供のように見える。けれど、レイにとってそれがうらやましく、危ういとさえ思った。
 だが、レイがガイを見ると彼はニヤリと笑ってしたり顔になった。どうやらルークがそう言うことを分かっていたようだ。思わずレイは笑ってしまう。
 ガイがルークのことを信頼しているのはこういうことだったのかと思った。
 


prev / next

[ back to top ]