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▽ 一人ぼっちの王子様6


 船室から出るとすぐ近くでジェイドがいて、壁に取り付けられている伝声管に呼びかけている。
「ブリッジどうした?」
「前方二十キロ地点上空にグリフィンの大集団です! 総数は不明! 約十分後に接触します! 師団長、主砲一斉攻撃の許可を願います」
「艦長はキミだ。艦のことは一任する」
「了解」
 そして管を通して全艦に伝わる。
「前方二十キロに魔物の大群を確認。総員戦闘配備につけ! 繰り返す! 総員第一戦闘配備につけ!」
 バタバタと兵士たちが動き始める。呼応して周りの空気がピリピリとしだした。
 レイはジェイドを見る。するとジェイドの表情は普段よりも険しい顔をしていた。だが、それも一瞬で余裕を持った笑みを浮かべる。
「どうにも嫌な予感がします。あなたはグリフィンを駆逐してください」
「わかった」
 そしてレイの背後に居たルーク、ティア、アニスに視線を向ける。
「三人とも、船室に戻りなさい」
 みんな険しい表情をしているのにルークだけが首を傾げている。
「なんだ? 魔物が襲ってきたくらいで……」
 ルークの安穏とした言葉にティアがこの状況を説明してくれた。
「グリフィンは単独行動をとる種族なの。普段と違う行動の魔物は危険だわ」
 ティアの言葉を遮るように感が激しく揺れた。床が斜めに傾いでタルタロスが止まる。ただ事ではない。レイはいつでも抜ける様に剣の柄に手を添えた。
 ジェイドが伝声管に向かって尋ねる。
「どうした」
「グリフィンからライガが降下! 艦隊に張り付き攻撃を加えています! 機関部がうわぁぁっ」
 悲鳴が伝声管から伝わる。
「ブリッジ! 応答せよ、ブリッジ!」
 ジェイドの声がむなしく聞こえるだけで返答はない。
 すると背後から震えるような声でルークが言う。
「ライがって、チーグルんとこで倒したあの魔物だよな?」
 ミュウが頷く。それを見たルークが叫んだ。
「冗談じゃねぇっ! あんな魔物がうじゃうじゃ来てんのかよ! こんな陸艦に乗ってたら死んじまう! 俺は降りるからな!」
 ハッチへ向けて走り出すルークにティアが追いかける。
「待って! 今外に出たら危険よ!」
 ティアの声もむなしくルークは昇降口へ走る。するとルークは何かにぶつかって床を転がる。とても大柄な男が昇降口の前に立ち塞がっていた。大男は笑った。
「その通りだ」
 そう言った男は大鎌を担いで黒い法衣を身にまとっている。神託の盾騎士団だ。レイは剣を抜く。やはり妨害は神託の盾だったのだ。
「ご主人様!?」
 ミュウの声と同時にジェイドの譜術が発動する。稲光が走り、男の両隣の兵士を吹き飛ばした。だが、男はジェイドの攻撃をはじき返す。それを見たレイはジェイドの前に立ち、譜術で薄い膜を作る。雷撃は膜に当たると発光して霧散した。
 すかさず逃げようとしたルークの壁際に鎌が突き刺さる。
「……さすがだな。だがここから先は大人しくしてもらおうか。マルクト帝国軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐――いや、死霊使いジェイド」
 男の言葉にティアが目を見開く。
「死霊使いジェイド……! あなたが……!?」
 ジェイドは、驚くティアの前を悠然と歩いてレイの前に出る。ジェイドはニヤリと笑っていた。
「これはこれは、私も随分と有名になったものですね」
「戦乱の度に骸を漁るお前の噂、世界にあまねく轟いているようだな」
「あなたほどではありませんよ。神託の盾騎士団六神将黒獅子ラルゴ」
 ラルゴと呼ばれた男がふっと笑う。
「いずれ手合わせしたいと思っていたが、残念ながら今はイオン様を貰い受けるのが先だ」
「イオン様を渡すわけにはいきませんね」
 レイの後ろでティアがすこし身じろいだのが分かった。だが、ラルゴは鎌をルークの首に押し当てて笑う。
「おっと! この坊主の首、飛ばされたくなかったら動くなよ」
「くっ……」
 ティアは口惜し気に杖を下ろした。その様子に満足したのかラルゴはジェイドのほうへと向き直る。
「死霊使いジェイド。お前を自由にすると色々面倒なのでな」
 その言葉にジェイドは嗤う。
「あなた一人で私を殺せるとでも?」
「お前の譜術を封じればな」
 ラルゴは衣服から小さな箱を取り出してジェイドの頭上へ放り投げた。箱が乾いた音を立てて弾け、光が奔る。その光を浴びたジェイドが苦し気に片膝をつく。レイはジェイドに駆け寄る。
「ジェイド!」
「まさか、封印術!?」
 そこでレイは背筋が凍る。封印術とは体内のフォンスロットをうまく制御できないようにする譜業だ。これを作るのに国家資産の一割を削られるというから敵の本気具合がわかる。譜術が得意なジェイドが術を封じられるのは大変痛い。
 レイはラルゴを睨みつける。
「貴様……! よくも!」
 レイは怒りのあまり自身のフォンスロットを開く。全身から光を放ち燐光が飛び交う。風のもないのに黒髪が煽られた。その様子にラルゴは笑う。
「ああ、お前もいたな黒衣のレイ。だが、お前の術は対策が出来ているんでな。大人しくしていろ」
 そう言ってルークに向けた刃に力を込めた。その手にはシンクと同じ赤い指輪がはめられている。ディストの譜業だ。それに人質を取られてしまっては元も子もない。レイは舌打ちしてフォンスロットを閉じた。満足そうにラルゴは頷く。
「そうだ。ネクロマンサーに自由に動き回られては困るんでな。俺が持っていて正解だったらしい」
 そしてラルゴはルークの首元に会った鎌を抜いてジェイドに斬りかかる。だが、鎌がジェイドに届くより先に槍を取り出してラルゴの腹に突進する。それを身をひねって避けたラルゴは身構えた。ジェイドが叫ぶ。
「ミュウ! 第五音素を天井に! 早く!」
「は、はいですの!」
 ミュウは言われるがまま天井に火を噴いた。すると明りに使われていた第五音素石が発光して飛び散る。その光をラルゴはまともに浴びて呻きながら目を閉じた。
 ジェイドの鋭い声が飛ぶ。
「今です! レイ、アニス! イオン様を!」
「はい!」
 レイとアニスは走り出す。すれ違う時にジェイドは言った。
「落ち合う場所はわかりますね?」
 アニスは頷いた。
「大丈夫!」
 そして、アニスは一目散に駆けていく。レイも一緒に向かおうとするが、一度振り返りジェイドに言った。
「死ぬなよ、ジェイド!」
「そうやすやすと死にません! 行きなさい!」
 レイはそのままハッチを抜けた。不安が残るが、今はイオンを救出するのが先だ。
 レイは振り切るように走り出した。ただ、まっすぐに。一刻も早くイオンを見つけて助けなければならない。その為に自分が出来ることをするだけだ。
 


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