シンパイテイシ。







僕は今日、呼吸をやめた。










誠凛高校。
今まで名もない高校で、火神や黒子が入ったことにより注目され始めただけの、弱小高校。
何の心配もいらない。
僕はいつも通りプレーして、いつも通り勝つだけだ。
それ以外に、一体何があると言うのだ。
勝つのは絶対条件だ。
勝つことを前提として、話をしよう。

相手は一体どんな手を打って来るだろうか。
早めに勝負をつけた方が、楽だろうか。
それともギリギリまで焦らした方が、観客は楽しむのだろうか。
黒子の新しい光は、一体どんなプレーをするだろうか。
黒子はどのように、成長しただろうか。

どれもこれも、在り来たりな質問だ。
勝てばそれで解決だ。
一つ一つの答えを用意するほど、僕は暇じゃない。

僕は負けない。
だから、どんな答えも導ける。
勝つことが全てだ。
『勝利』が、全ての答えなのだ。


僕は心から、そう思っていた。
願っていた。


負けることなんてあり得ない、そう信じて疑わなかったからだ。
だからこんなにも、空っぽだったんだ。
僕はあまりにも、孤立し過ぎた。
勝つことが全てじゃないと、気付かなかった。
気付けなかった。
信じたくなかった。

勝利は謂わば呼吸のようなもので、求めるまでもなく手の中にあった。
だからこそ、気付かなかったのだ。

呼吸はいつか止まってしまう。

そんな単純な事に。



『誠凛高校の勝ち!』



コート内に響く歓声が耳に痛い。
何やら視界も滲んできた。
最近は馴染みのなかった、これは一体なんだったか。
一般的に悲しい時に流れるという、これは。

僕は悲しくなんてない。
『それ』を流すほど、弱くもない。
僕は負けない。
だから、強い。
だから、正しい。
それなのに、それなのに。


僕は負けてしまった。
僕の呼吸は、止まってしまった。
だれか、僕に人工呼吸を。
息を吹き込んでくれ。

また、僕に勝利を与えてくれ。
そうしないと、僕は死んでしまう。
息が出来ず、窒息する。


苦しい、ともがいて、僕の呼吸は止まってしまった。
その先に見えたものは一体何だったか。
確か、死に際に微笑んだあいつらは、確か………









シンパイテイシ。









(そうか、これが敗北か)

(死に際に微笑んだあいつらは)

(また僕を迎えてくれるだろうか)

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