敦と賢治と野菜の話
敦は中也が付き合っている女子生徒歩と接触する機会に恵まれた。というのも歩が賢治と共に廊下を歩いているのにばったり遭遇したのである。
「敦さん!あ、歩さん、此方中島敦さんです!」
賢治がさらりと紹介するので敦がぺこりと頭を下げると、歩も同じ様に頭を下げていた。
「初めまして、歩です。」
歩の声は聞きやすい高さであったものの若干震えていた。
「この前はすみませんでした。その......お二人の邪魔をして、しかも貴女を起こしてしまって。」
「あ、いや、その、はい。大丈夫、です。」
視線を泳がせながらしどろもどろに応対する歩に違和感を感じていた敦は直ぐに答えを知る事になった。
「歩さん結構な人見知りで、初めて会う人と話すの凄く緊張しちゃうみたいなんです。」
「み、宮沢さん......!」
歩は耳を少し赤くして下を向いてしまった。敦は合点がいき、気にしないでくださいと顔の前で両手を振る。
「僕の方こそずけずけとすみません!」
「いえ、それは......大丈夫です。」
歩と敦が頭の下げ合いを続けるため、賢治がストップです!と止めに入る。
「二人共、仲良しになったんですから!握手をしましょう!」
賢治が二人の手を取って繋ぎ合わせる。そのまま上下に振って仲良し仲良しと連呼するので、敦と歩はクスリと笑い合った。
「そういえば、賢治君と歩さんは如何いう知り合いなんですか?」
「私が園芸部に所属していて......」
「僕がそのお手伝いをしているんです!土を運んだり、花壇の修復作業をしたり。」
園芸部は女子が多いと聞くし、賢治のように力があり比較的というよりはかなり頼みやすい人材はなかなかいないだろう。賢治は農作業にも精通しているし、力になれる事が多そうである。
「私、今個人的に野菜を育てていて、小さいプランターでなんですけど。」
これくらい、と歩が手でサイズ感を示した。それを四つ程持っているようだ。
「それで、宮沢さんに色々お話を聞いていたんです。」
「歩さんならきっと美味しい野菜ができますよ!」
賢治が鼓舞すると、歩ははにかんだ。
「ありがとうございます。実ができたら料理して持ってきますね。中島さんも是非その時は。」
「良いんですか?」
「はい!毒見係っぽくて申し訳ないんですけど。」
「今から凄く楽しみです!」
「そんなに期待はしないでください......。」
それからも三人は他愛もない話をした。歩も徐々に敦に慣れてきたのか話せるようになり、話はより盛り上がった。
「私そろそろ行きますね。」
一時間程経っただろうか。歩が話の途中だったため申し訳なさそうにしながら云った。
「部活ですか?」
「いえ、図書委員会の当番があって。」
一週間に二回、昼休みと放課後それぞれに当番日程を入れているのだと歩は語る。
「本は好きなので、苦ではないですけどね。」
楽しそうにそう付け足した歩に二人も思わず笑みを溢した。
「またお話しましょうね!」
「帰り道お気をつけて!」
そうして賢治と敦が手を振り、歩も手を振り返して三人は別れたのであった。
[ 2/8 ]
[目次]
[しおりを挟む]
前へ 次へ
トップページへ