結局、真ちゃんが松下に何を強要したのかは教えてもらえないまんま昼休みが終わった。まあ、2人がなかよさそーに話してるのがガマンできなくなって乱入しちゃったのはオレなんですけどね。だって、想像以上にむかついたんだもん、仕方ねーじゃんって自分に言い訳する。
いまは眠くなる5時間目の授業中だけど、オレの視線は黒板じゃなくて窓際の席に座ってる松下。なんで真ちゃんなんだよって心の中で言ってみるけど、そんなの松下に届くはずもなくて、松下はマジメに授業を受け、黒板と自分のノートに視線を交互に向けているだけだった。こっそりため息をついて黒板に視線を戻すとオレは律儀にも睡魔がやってきて、そのまま睡眠学習に入った。
こつん、となにかが頭にあたって目が覚めた。先生か、ヤベェ怒られるなって思って上半身を起こしたら、そこにいたのは松下だった。
「高尾HR終わったよ」
「ヤベェちょー爆睡だったわ」
「緑間くんもう部活行っちゃったよ」
「マジかよ!真ちゃんひでぇっ」
ばたばたと片付けて部活に行く準備してたら、焦りすぎだよとか言ってた松下がオレを見て何かに気がついて、ふふって笑ってそっとオレの髪に触れた。その一連のことにドキッとしないわけねーじゃん。オレがドキドキしてることなんて知らない松下はオレの髪をいじっている。何してんのかと思えば、どうやら髪を直してくれてるみたいだった。
「ここクセついてる」
「えーマジかー」
「んー、こんな感じかな」
「さんきゅ」
「ふふ、どういたしまして」
真ちゃんのことを好きなのも聞いたし、今日なんかいいカンジだったのも知ってる。けど、なんなのこの子、マジで好きなんだけど。ホント松下はオレの心をつかんで離さない。まあ、こんなことで元気になるオレはそーとー単純なんだけどさ。カバンもって松下にバイバイすれば、松下はがんばってねって手を振った。あーもう、オレのモチベーションって松下なの、そーなのってカンジで、オレ今日部活頑張りまっす。だって、そのがんばっては真ちゃんじゃなくてオレに向けられたものだから。
つい部活中にそのことを思い出してにやけたところを宮地サンに目撃されて、気持ち悪ぃ、集中しねぇと焼くぞって言われた。大坪さんはいつもに近い調子だったことに安心したみたいで、部活後の自主練は帰されなかった。いつものように8時すぎまで自主練して、シャワー浴びて、着替えて真ちゃんと部室をでようとしたとこで、カバンにPSPが入ってないことに気がついた。
「真ちゃーん」
「オレは先に帰るのだよ」
そう言って真ちゃんはさっさと帰っていった。真ちゃんの薄情者ーそう言うと思ってたけどとか呟きつつ、オレは教室に向かった。
薄暗い廊下を早足で歩いてると、自分の教室だけまだ電気がついていた。誰かいんのかなーって開いてた扉から教室に入ったら、教室にいたのは松下で一瞬驚きすぎて声がでなかった。ま、そこはすぐに気を持ち直して、オレに全然気がついてない松下に声をかけた。
「なーにしてんの、松下」
「うっわぁっ!え、え、あ、なんだ高尾かぁ」
「ぶっは!驚きすぎっしょ!」
「もー、てか、どうしたの?」
「ん?忘れ物。で、松下はなにしてたの」
「担任からの頼まれごと」
オレは机の中にいれっぱなしだったPSPをカバンにしまって、松下の席の前に立った。松下はなんかプリントをホチキスで閉じる作業をしていた。また、そんなことほいほい頼まれちゃって、人良すぎ。手伝おうとしたけど、ちょうど松下は最後の一部を閉じ終えた。それらを松下は教卓に置くと一息ついたみたいだった。
「終わり?」
「うん、やっと帰れるよー」
「そ、じゃあ、帰りますか」
「はーい」
松下と教室をでて、駐輪場まで一緒に歩いていく。松下がチャリの鍵を開けて、チャリをひいてオレのほうまでかけよってきた。このまま帰るつもりの松下からチャリを奪って、それに跨った。松下はきょとんとオレを見つめている。
「送ってやっから乗れよ」
「へ、」
「早くしないとこのまま行っちゃうからなー」
「わわ、待ってよっ」
カシャン、と控えめな音が聞こえてチャリが少し重くなった。そしたら、おずおずと松下が脇腹の制服を掴んだ。それを確認してからオレは口元がゆるみながらもペダルを漕ぎ始めた。
オレは松下の家までの帰り道、あえて個人的タブーの話題に触れた。なんでかって、オレのなかで気持ちの整理したいから。
「松下さあ、真ちゃんとは付き合いたいの?」
「え…?」
「だーかーら、告って付き合ってどーのこーのしたいのって」
「んー…そういうのあんまりないなぁ」
「っ、なんで?」
「なんか、付き合いたいとかピンとこなくて…見ててかっこいいなぁとか、話ししててドキドキしたいとか、そんな感じ」
「ふーん。オレには理解できねーな。好きになったら告って付き合いたいじゃん」
「んー、普通はそうだよねぇ」
思いがけない松下の緑間への気持ちにオレはなんか希望を見出せていた。意識してもらおうとしてたのが全然気づいてもらえてないショックとか色々あったけど、松下にこの話題ふってセーカイ。オレのチャンスはまだ消えてない。いままでなんとなく告るタイミング逃してたし、もう無理だとか思ってたけど、なんかそんなことない気がしてきた。
「高尾ってさ、好きな人いるの?」
「あーいるけど」
「え…本当に?」
「でも、そいつ好きなヤツいんだって」
「…うん」
「もっと知りたい?」
「いい、どうせはぐらかすから」
「なんだそれ」
「あっ!そうだ、お昼休みに緑間くんがね高尾が変だって」
「はあ?」
「なので私から高尾クンにアドバイスです」
「マジかーあざーす」
急になんだよ、つーか、昼に話してたのオレのことかよっ。けど、オレが変だったもとい調子が悪かった理由は松下なんですけどね。本人気がついてませんけど。本人からアドバイスってどーなの、それ。まあ、聞きますか。
「高尾はなんでも余裕にみえちゃうからさ、悩みとか誰かに話したほうがいいよ」
「え、」
「例えば、私とか」
ああ、ホントに松下はオレがお前を好きってわかってない。それが今になってもどかしくて仕方なくなってくる。オレがいけないのかもしれないけど!いまの悩みとか松下のことくらいだし。なんか、いろいろ考えすぎて吹っ切れてきた。
キキィとブレーキをかければ、そこは松下の家の前。松下のチャリから降りて、一度チャリを停めた。
「わざわざ送ってくれてありがとう」
「…じゃあ、お礼ちょーだい」
そう言ってオレは松下をぎゅっと抱きしめた。松下はすっぽりと腕の中に収まって、いまの状況をあんまり把握してないみたいだった。チョーシにのってもう一回だけぎゅっとしてからオレは松下を離した。松下は顔を赤くしてオレのことを見上げていた。それが可愛くて笑ってしまう。
「オレ松下だから、したんだからな」
「…へ…」
「んじゃ、また明日なー」
パンク寸前の松下に最後はいつものノリで別れを告げて、オレは家に帰った。
こっから反撃開始
(みてろよ、松下)
(ぜってぇ真ちゃんに負けねーから)
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