中編 | ナノ


いつもと同じ朝のはずだった。愛用の赤い自転車を駐輪場に停めて、鍵をかける。そしたら緑間くんを乗せた高尾が学校に到着するのに、今日はその時間になっても来なかった。

何となく駐輪場から離れがたくて、ケータイをいじりながら待ってみた。5分くらい経ったくらいで、たった十数メートルの距離一緒に歩くだけのために待ってる自分ってちょっとうざくないかって思い始めた。特に約束してる訳でもないのに。しかも、あの神経質な緑間くんが一緒で時間通りに来ないってことは今日朝練ないのかもしれないとか、今更気がついて待ってる自分が恥ずかしくなってきた。さっさと生徒会室行こう。そう思ったらばたばたと校門から走ってくる2人組が見えた。


「あれ、まつしたぁー?」

「高尾、緑間くんっ」


いつものリアカー付きの自転車じゃなくて走ってきた2人の姿に驚いていると、2人は大きく息を吐いて、1回深呼吸をした。高尾は軽くかいた汗を制服の袖で拭う。緑間くんはすでに涼しい顔をして、「行くぞ」って先に歩き始めた。それを追いかけるように高尾と一緒に緑間くんの後を追う。追いついてこっそり緑間くんを見たら綺麗な横顔にすこしどきっとした。


「…つーか、松下待っててくれたの?」

「…あ、うん、ちょっとだけ」

「全く律儀なのだよ。先に行ってて構わないものを」

「だって…会いたくて」


何て言っていいかわからなくて、素直に出た言葉が何やら恥ずかしくて少し俯いた。心なしか頬が熱い。誤魔化せばよかったって後悔しても、すでに遅かった。幸い高尾も緑間くんもそんな気にしないでくれた。でも、高尾のそっかーって声がどこかいつもと違うように感じたけど、気のせいだったかな、なんて思ってたらすぐに下駄箱について、いつものようにバイバイして私は生徒会室へと向かった。


***


「松下、ちょっといいか」

「ん、どうしたの?」


お昼休み。ちょうどお弁当を食べ終わってみどりと談笑していたところに、緑間くんがやってきた。その2メートル近い身長に加え、堅い喋り方、そして、おは朝信者という変わり者のために女子からは近寄りづらい存在の彼。みどりはそそくさと席を離れていった。いい人なんだけどなぁ。

それにしても緑間くんの近くに高尾がいないなんて珍しい。いま高尾はクラスの男子とご歓談中だ。緑間くんはさっきまでみどりが座っていた前の席に腰を下ろした。私はなんの話かと、少しどきどきしながら目の前にいる緑間くんを見つめた。


「…高尾のことなんだが」

「高尾?」

「一昨日から様子が変でな、何か知らないかと思ったのだが」


その、色恋的な話を期待してたわけじゃないんだけど、高尾の相談だったことに少し残念というか、緑間くんらしいというか。それは緑間くんが露知らないことだから当然なんだけど。

兎にも角にも、今は高尾について聞かないとね。まあまあ、聞くところによると一昨日の午後から昨日にかけての高尾は散々だったらしい。いつものハイスペックで余裕のある彼からはあんまり想像できない姿で疑ってしまった。


「高尾にもそんなときあるんだね」

「今朝の朝練では調子を取り戻してたみたいだが、いつ崩れるかもわからん」

「…緑間くん、高尾のことよく見てるね」

「そんなわけないのだよ。オレはただヤツのバスケに影響することが、結果的にオレにも影響するからであってだな、」

「ハイハイ」


その少し恥ずかしがった緑間の横顔を見て、私は胸がやけるようなきもちになった。そして、その緑間くん越しに見えた高尾の笑う顔が見えて、私は、なぜか少しもやもやしてちくちくする。どうしてだろう、変なのかな私。そこで緑間くんの咳払いが聞こえて、ぱっと緑間くんのほうへ視線を向けた。


「まあ、一昨日の昼になにがあったか分かればな…」

「一昨日の、昼?」

「そうだ。そこからヤツがおかしくなっていったのだからな」

「一昨日の昼なら、高尾私と会ってたよ」

「なっ!それを早く言うのだよ!」

「え、あ、ごめんなさい」

「それで、用件はなんだったのだよ」

「副会長が高尾気にいったから紹介してほしいってことを…伝えに…」


緑間くんがすごい形相だったから、全部話しちゃったけど、緑間くんそんなに大きなため息つかなくてもいいじゃないかな。え、私がいけなかったの。ただ桜庭先輩からの伝言伝えただけなのに。それでぴりぴりするなんて理不尽緑間くん。


「あとは?」

「え?」

「他には何もなかったのかと聞いている」

「ほか…」


他と言って思いあたったのは一つだけ。私が緑間くんのこと、す、好きってカミングアウトしたこと。思い出しだけで恥ずかしい。


「その顔はなにかあるな?言え」

「っ、い、言えないっ」


そんなこと本人に言えるわけがないでしょう。まだ自覚したてのあやふやな恋心を本人目の前にして言えだなんて、どんな罰ゲームよ。引き下がらない緑間くんから、どうこの場を切り抜けるか悩んでいたとき、タイミングよく現れてくれてた彼に私はほっとした。



少年の憂鬱
(もー!さっきから何話してんのー?)
(高尾、率直に聞くが)
(はい?)
(土曜日の昼、松下となにがあった)
(そそそそんなの!私と高尾の秘密だから!ね!ね!高尾っ)
(あ、ああ、ナイショなのだよ!)
(そうか、ならば松下、お前が高尾をなんとかしろ)
(…え?なに、真ちゃんどーゆーこと?)
(松下、いいな?)
(…はい)
(おいてけぼりかよっ!)



130515



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