中編 | ナノ


土曜日だってのにバスケ部の練習は朝早い。いつものように真ちゃんとのジャンケンに負けた俺は学校まで必死にチャリを漕ぐ。その途中、珍しく真ちゃんから話しかけられた。


「昨日、松下が階段から落ちたところをたまたま助けるかたちになったのだが」

「ちょ、待って、話しが急すぎんだけど!」

「俺だって急な出来事だったのだよ。まあ、松下に怪我がなかったからそれはいいとして」


松下が怪我してないって、真ちゃんグッジョブ、その一言で俺は安心して真ちゃんの話の続きが聞ける。でも、松下を助けたのが自分じゃなくてちょっと悔しかったりもする。


「松下は高尾が言っていた通り、本当頑張り屋なのだな」

「あー、だろ?しかもドジだし、無自覚だし」

「だから、昨日周りを頼れと言ってやったのだよ」

「お、言いこというじゃん!」

「全く、お前があれのどこに惚れたのか…」

「だーかーらー、頑張り屋で笑顔が…って俺真ちゃんに言ってなくね?」

「馬鹿め、見てればわかるのだよ」


うっそ、マジで。超鈍感な真ちゃんに俺が松下のこと好きってばれてるとか…予想外なんだけど。もしかして、松下にもばれてたりしねぇよな。考えただけでドキドキしてきた。やべ、俺重症。

ちょっともやもやしながら学校着いて、駐輪場にチャリを止めたらさっさと体育館に向かう。そっからはきっつい練習のおかげでもやもやなんかはどっかいったんだけど、頭のどっかで土曜日にうっかり松下に会えないかなーなんて考えちゃってる俺がいる。そのくらい期待したっていいっしょ。なーんて。そのあとは宮地先輩に怒鳴られたり、真ちゃんからかったり、自分のスキル高めたり、いつもみたいに充実した部活の時間が過ぎていく。


「よし、十分休憩!」


大坪先輩のそのひと声で部員がそれぞれ息をつく。俺もマネージャーが用意してくれたスポドリを喉に流し込んだ。なぜか急に体育館がざわざわして、不思議に思って周りを見渡してみたら男くさい体育館に似合わない声が響いた。


「おーつぼーくーん!ちょっといいかなぁー?」


体育館の入口からでかい声で大坪先輩を呼んだのは生徒会の副会長で秀徳一の美人って言われてる桜庭先輩、と一緒にいたのは松下だった。え、うそ、ラッキー!松下は俺と真ちゃんに気づいて控えめに手を降った。


「大坪くん、部活の備品調査のプリントなんだけど不備があったからもう一回確認してもらえる?」

「ん、すまない。すぐに確認する。マネージャー、これ至急頼む」

「たぶんすぐ終わるでしょ?生徒会室まで来てもらうのも悪いから、上で練習見学しながら待ってるね〜」

「わかった」

「…桜庭先輩?」

「いいじゃん、せっかくなんだから♪」


そう言って桜庭先輩は松下を引っ張って上へと上がって行った。それからすぐに部活再開。ちょっとの間とはいえ、松下が部活を見てるなんてやる気でるんだけど。だって、いいとこ見せたいじゃん。ちょうど次はミニゲームだし。なんて思ってるけど基本的にシュート決めんのは真ちゃんなんだよなー。ま、俺はこの眼を活かすのが得意だからいーんだけど。パスカットからの真ちゃんへのパス、そしてシュート。真ちゃんが放つシュートは相変わらず高い放物線を描いてゴールへと吸い込まれる。

ミニゲームが終わるころ、ちょうど松下たちは帰るみたいだった。松下は手を降って、桜庭先輩と体育館を出て行った。真ちゃんには顔が緩んでるって言われたけど、俺的には元気を貰えたわけだからオールオッケー。そのままのテンションで午前の部活が終わった。


「しーんちゃん!飯食おーぜー」


体育館の外の適当なところに真ちゃんと先輩たちと座って弁当を広げる。弁当と一緒に、カバンにしまいっぱなしだったケータイを見ればメールが一件届いていた。メールの送り主は、松下姫。あまりにもびっくりしすぎて慌ててメールの本文を読む。


『伝えたいことがあるので、お昼休みに会えませんか?』


真面目な彼女らしい文面以上の内容の衝撃度が高すぎてケータイ落としかけた。そこはなんとか気を持ち直して、すぐ行く、どこ?って素っ気ないメールを返した。いや、まじそれが精一杯。メールが返ってくるまでの間に弁当をかきこむ。真ちゃんにはゆっくり食えと怒られたけど、それどころじゃない。正直味なんかしなかった。食べ終わった弁当をカバンに突っ込んで、ちょっと出かけてきますって早口に言って、校舎のほうに走った。

途中、松下から、屋上にいく階段にいます、って返信を見て俺は一直線にそこへ向かった。あんだけハードな部活しといて、まだ走れる俺すごい。あっという間に屋上にいく階段前。一回深呼吸をして息を整える。ちょっと緊張しながら階段を一段一段昇っていくと、踊場を曲がったところで松下が階段に座ってオレを待っていた。


「お疲れさま、高尾」

「おー、相変わらずきついわー」


ちょうど松下のまん前で俺はしゃがむ。いま俺、試合前より心臓ドキドキしてるわ。そんなこと先輩の前で絶対言えないけど。


「…でさ、話って、なに?」

「あ、うん、あのね」


なんて言おうか言いあぐねる松下。そんな松下を目の前に期待と不安と嬉しさといろいろで吐きそうなオレ。


「あのね、高尾、桜庭先輩わかるよね?」

「今日一緒に体育館来てた先輩だろ?それがどうかした?」

「なんかね桜庭先輩が高尾のこと気になるみたいで、紹介してほしいって頼まれて、さ!」

「……話って、このこと?」


松下は少し目を反らして頷いた。そして、俺には何ともいえない虚無感が襲ってくる。よりによって好きな奴から女紹介されるなんて。それって俺のこと眼中にないってことか。半ば気力もなしに俺は口を開く。


「…松下はさぁ、好きなやついんの」


ここで、いないって言え。頼むから。そしたら俺だってまだ頑張れる。願うよ気持ちで松下を見つめれば、松下は誰かを思い浮かべたのか、顔を赤くした。俺の落ち着いた心臓がまたバクバクと鳴り始める。今度は嫌な予感の高鳴り。聞かなきゃいいのに、俺はもう止まれなくて。


「だれ?」


そう少し上ずった声で聞いてしまった。松下はほっぺたを赤くしたまんま、おずおずと口を開く。


「…緑間、くん」


その瞬間、音がなくなった気がした。俺はまじかよって零すのが精一杯だった。そんなこと知るはずない松下は内緒だからねっていつもみたいに笑った。





ヒビの入った世界
(君はいつものように笑うけど)
(今はその好きな笑顔が)
(つらくてたまらない)

130313

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