「ねー、姫ちゃん」
「はい?」
いつものように生徒会室で先輩たちと一緒におしゃべりしたり、資料まとめたり、先輩の雑用したりしていた放課後。三年生で生徒会副会長でミス秀徳の桜庭先輩がにやにやしながら私の隣に座った。黒のストレートロングの髪がさらっと肩から落ちる。桜庭先輩って本当きれいだよなぁ。
「昨日仲良さそうに一緒にゴミ持ってた男の子、彼氏?あの子バスケ部の高尾くんだよね?一年でレギュラーとっちゃった。かっこいいよねー私タイプかも!」
本当こういうところがなければ、というか黙ってたら美人なんだけどなぁ。そしてどこで見てたんだろう。
「彼氏じゃないですよ」
「え、本当!じゃあさ、紹介してよ」
「紹介、ですか」
「うん♪」
「…それとなく伝えときます」
「むしろデートとかセッティン…」
「松下、そこの段ボール特別棟の資料室に持って行ってくれないか」
「はーい、わかりましたー」
生徒会長ナイスです!桜庭先輩の話は申し訳ないけど無視して、私はそそくさと段ボールを持って生徒会室をでた。桜庭先輩って恋愛沙汰とか好きだなぁ。高尾かぁ…なんであのときちょっと嫌だなって思ったんだろう。仲良い友だちを横取りされる気分っていうのに近いのかな。
うーん、それにしてもこの段ボール重い。そして特別棟遠い。資料室って特別棟の四階だったよね。特別棟行くには一階下に下がらないといけないのが面倒くさい。なんで四階同士でつなげてくれなかったのかな。そしたら生徒会室ある階から直接いけるのに。なんて、私じゃどうしようもないことを考えながら階段を一歩一歩ゆっくり降りて行く。あともう少し、あと数段、そんなところで私はまさかまさかの足を踏み外した。
「え、わっ!!」
地面にぶつかる、やばいと思ってぎゅっと目をつむる。けど、予想した床の冷たくて固い衝撃じゃなくて、どんっとあったかくて大きいなにかに私は包み込まれた。
「…大丈夫か?」
聞き覚えのある声が聞こえてそっと目を開ければ、さらっとした綺麗な緑色の髪、そして眼鏡の奥の長い睫毛に目を奪われた。
「み、緑間くん…」
「立てるか?」
その言葉でいま自分が緑間くんになだれ込むように抱きついていることに気がついた。一気に恥ずかしくなって急いで緑間くんから離れた。
「ごごごめ、ごめんー!!怪我、怪我とかしてない!?」
「いや、大丈夫だ。というか、松下こそ怪我は?」
「すみません…大丈夫です…」
ぽんぽんと制服をほろって緑間くんは立ち上がる。それにつられて私も申し訳ない気持ちになりながらも立ちあがる。辺りに散らばった資料を挟んでいるファイルをひとつひとつ急いで拾う。
「本当そそっかしいのだよ、松下は」
「うう、すみません…」
「別に怒ってなどいない」
「本当…?」
「怒る理由が見当たらないのだよ」
普段からクールな緑間くんだからいまいち感情が読み取れない。けど、嘘を言うような人じゃないのはこの二ヶ月くらいの付き合いでわかっている。だから、きっと怒ってないって本人が言ってるなら怒ってないんだろう。
「これで全部か?」
「うん、ありがとう!」
緑間くんに手伝ってもらって散らばったファイルは全部段ボールの中に戻った。そんでもって緑間くんの今日のラッキーアイテムのパンダのぬいぐるみもちゃんと拾う。あとは気を取り直して資料室まで、って思ったら緑間くんがひょいっと段ボールを持ち上げていた。
「これはどこに持って行くつもりだったんだ?」
「あ、特別棟の資料室だけど…」
「なら、さっさと行くのだよ」
「ちょ、緑間くん!」
緑間くんはさっさと歩きはじめてしまった。いやいやいや、階段から落っこちたところを助けてもらって、しかもファイルの片付けも手伝ってくれた上でそれを資料室まで運んでもらうなんて、それはちょっといくらなんでもやってもらいすぎよ!慌てて緑間くんのラッキーアイテムを握りしめて彼の背中を追いかける。
「緑間くんいいよーありがとう」
「これくらいなんでもないのだよ」
「でも…」
「松下は…」
緑間くんは歩くのを止めて私を見る。だから私も私よりも頭二つ分くらい大きい緑間くんを見上げるカタチになる。
「本当、頑張りすぎなのだよ」
「え?」
「頼れるときは頼るのだよ」
「…!」
「松下は俺のラッキーアイテムを持っていればいい」
そう言って緑間くんはふわりと笑顔を見せた。その普段からあまり見ない緑間くん笑顔と優しい言葉にに私の胸はすぐに高鳴った。私はちょっとぎこちなくありがとうって言ってパンダのぬいぐるみを持ち直した。
恋に落ちる
(ああ、もしたしたら)
(緑間くんのこと好きに)
(なっちゃったかもしれない)
130209