丸井くんと初めて一緒にご飯を食べたあの日。自覚してしまった気持ちに戸惑いながらむっちゃんにメールした。その気持ちは誰かに言うと、不思議なことにより鮮明になるもので。動揺しすぎてケータイを落とした。
しかも、その日の部活はなんていうか散々で、アウト、ダブルフォルト、ネットにチップまでいろんなミスをやってのけた。しまいにはボールに気づかず踏んでそのまま思いっきり転んで、部のみんなを心配させてしまった。むっちゃんは呆れてるような、心配してるような。まあ、そんな日から一週間がたつわけだけど。
「ねぇ、丸井がそろそろうるさいんだけど」
「な、なんで」
「あんたが会うのは避けてるにメールは返したりしてさー」
「避けてなんか…!」
「あるでしょ。今現在こうして」
いまは私より背の高いむっちゃんの陰にかくれながら男テニのコート前を通って部室に向かっている。そう、むっちゃんの言うとおり、意識したあの日から私は丸井くんを避けてしまっている。理由はうっすらわかっているけど、それを明確にするには勇気が必要だった。
「丸井くんに逢うのは、まだ怖くて…」
「怖いって、」
「どうして?」
ばっと振り向いたら、すぐ近くに幸村くんがいた。幸村くんは柔らかい笑顔で私たちに近づいてくる。
「睦美さん、だっけ?姫さんちょっと借りてもいいかな?部活には支障のないようにするから」
「え、幸村くん?」
幸村くんは私の腕をがっしり掴んでいた。むっちゃんに助けを求めようとみあげたらあっさりと、どうぞ、って引き渡された。そして、さっさと部室に向かってしまう。私はそのまま幸村くんに連れられて、男テニの部室に入った。
「あの、」
「最近の丸井はすごく面白いんだよ」
「おもしろ、い?」
「突然喜んだり、ヘコんだり、不機嫌だっりして」
「そ、そうなんだ」
「それって多分姫さんのせい」
「っ、」
自分のせいと言われて複雑な気持ちになった。けれど、思い当たることがあって何も言えなくなる。それって、私が丸井くんを避けていたから、かな。でも、なんでそれで一喜一憂するのかわからない。
「姫さんは本当に鈍感だね」
「幸村くんって笑顔で人をバカにするの好きそうだよね」
「そんなことないよ」
うわ、超笑顔。幸村くん怖い。優しい人だと思ってたのに。とゆうか、そろそろ部活も始まりそうだし、このままここにいたら丸井くんだってくるかもしれない。それはそれで気まずい。
「幸村くん、そろそろ部活が…」
「大丈夫。今日は女子のみんなと合同練習って言ってあるから」
なんて用意周到な人なんでしょう。確かにそれは部活には支障はない。むしろ、女テニにとっては有益なことだ。一言言わせてもらえるなら、事前に言ってほしかった。あと取り巻きの女子たちがさらに近くでうるさくされるっていう支障が少し気になった。
「それにさ、姫さんだってこのままだとテニスに集中できないでしょ?この前みたいに転ぶかもよ?」
「…見てたの…」
またあの笑顔。幸村くんって案外人が悪い。
「ねぇ、率直に聞くけどさ」
「うん?」
「丸井のこと好き?」
息がつまりそうになった。え、ばればれなのかな。幸村くんは私の答えをじっと待っている。嘘なんてついたらすぐにばれるんだろう。私は重い唇を持ち上げる。すごく鼓動が早い。
「……す、き」
好きだよ、って答えようと思ったらすごい勢いで部室の扉が開いた。幸村くんと私の目に飛び込んだのは、ふわふわの赤い髪。
恋のキューピットは神の子でした
(…ま、るいくん)
(やあ、丸井。いまは部活の時間じゃないのかな)
(幸村こそなにしてんだよい…?)
(ふふ、余裕ないね丸井)
(っ!う、うるせーよ!)
(じゃあ、姫さん僕は部活に行ってくるよ)
(え、幸村くん!?)
(は、幸村…!?)
(行っちゃった…)
120421