どうしよう、足が重い。あんな思わせぶりなこと言ってたなんて全然気づかなかった。でも、丸井くんが告白されるとか思ってるわけない、よね。全力でそれを願ってる訳なんだけど。それにさ、丸井くんは今までいろんな子に告白されてきてて、私が知る中でもだいたい可愛い子ばっかで、仮に私が告白なんてしても絶対オッケーされない自信がある。なんか、そんな自信なくていいから、って言ってくれそうなむっちゃんの声が聞こえた気がした。
と、というか、私告白しないし!メアド聞きたいだけだし!幸村くんが変なこと言うから余計な心配とか、不安とかかきたてられたから、緊張してるんだよ。私は私の用事をちゃんと伝えれば大丈夫だ。
丸井くんはもういるかな。いま、約束の時間の10分前。どきどきしながら探したら、B組の下駄箱のところでしゃがんでいる丸井くんがいた。
私はというと、見つけた瞬間自分で呼び出しておきながら隠れてしまった。心臓が早くて苦しい。テニスの大会より緊張する。一回、深呼吸して自分を落ち着かせる。大丈夫、アドレス聞くだけだから。そう言い聞かせて私は飛びたした。
「ま、丸井くんっ」
「お、おう。早かったな」
「丸井くんこそ早いね」
まあな、って丸井くんが言った。でも、そこから会話がない。いやいやいやいや、私が話さなきゃいけないんだよ。呼び出したの私なんだから。丸井くんもずっと私のことを見ている。ああもう、言っちゃえ!
「丸井くん!」
「なんだよ?」
「あ、あのね、今日わざわざ呼び出しのは、ね、」
「呼び出したのは?」
「〜〜〜〜私と、」
「お、おう」
「アドレス交換してくださいっ!」
「……は」
「だめ、かな?」
「いや、全然だめじゃないけどよ」
「ほんとっ!?やったー!」
どうしよう、本当に嬉しい。勇気出してよかったよー。このとき、私は丸井くんが呆然としていることには全く気がついてない。私たちはそのあとケータイを取り出してアドレスを交換した。
「ありがとう、丸井くん」
「別にアドレスくらいで」
「なんか、回りくどい言い方でごめんね、それだと告白するみたいだって、幸村くんに言われてさー」
「っ!!」
「そんなことないのにね」
私はアドレス帳に入った丸井くんのアドレスを眺めながら話した。わあ、私が男テニの人とアドレスを交換する日がくるなんて思いもしなかった。
「俺は、そんなことあると思って、た」
「え?」
今のは聞き間違い、だろうか。反射的に丸井くんを見たら、真剣な目と少し赤くなってる顔で私を見ていた。その表情見ていたら心臓が苦しくなった。丸井くんは私に告白されるかもしれないって思ってたってこと、だよね。
「そ、そそそんなことない!しない!」
「…なんでだよ」
「だって、丸井くんにふられる自信しかないもんっ」
「そんなのわかんねぇだろぃ」
「それに私がキラキラオーラの丸井くんとなんて付き合えないっ!」
少し間があってから、そうだよなって声が聞こえた。それにほっとした反面なぜか少しがっかりしてる自分がいた。それがなんでかはわからない。
「…帰るか」
「あ、うん!」
この流れって一緒に帰れるんだよね。あ、でも、家どこなんだろう。反対だったら校門までかな。それでも嬉しいな。靴に履き替えて、傘をとろうとした。したのだけど、傘がない。最悪、とられた…!
「姫、どうしたんだよ?」
「傘とられた…」
「なら、俺の傘入ってけよ。家まで送る」
「い、いや、悪いよ!それに誰かに見られたら!」
「俺はかまわない。元々、送るつもりだったし」
この場合のかまわないっていうのは、気にしないの意味だよね。丸井くんイケメンだから、どきってしちゃうよ。
ほら、行くぞって丸井くんが傘を広げて私を見ている。私はどきどきしながら、丸井くんの傘にお邪魔した。
キャンディドロップ
(浮かれすぎて撃沈だったのか)
(うっせーよ)
(というか、本当にそれだけだったのか)
(…告白まがいのことして、ふられた…)
(なんじゃ、おもしろそうじゃの)
(面白がんなっ!人が傷ついてんのに)
(なら諦めるんか?)
(諦めねーし)
(あ、丸井、仁王)
(おー幸村どうしたんだよい)
(見て見て、さっきね姫さんとアドレス交換してきたんだ)
(幸村てめー!)
(ふふ、なにをそんなに怒ってるのかな)
(絶対わかって言ってるじゃろ、幸村)
120411