中編 | ナノ


私が打ったボールを打ったのは丸井ブン太くん。赤い髪と笑顔が人気の人だと、丸井くんと同じクラスのむっちゃんが言っていた。いや、本当はもっと詳しく言ってたけど、どうせ関わることはないと思って全然聞いてなかった。

まさかのご登場の丸井くんは私のボールをラケットで弄びながら私をじっとみている。そしたら何か思い出したのか、あ、と口を開けた。


「あんた女テニの部長の、姫!」

「そ、そうだけど。なんで名前知ってるの」


いきなり名前呼ばれてちょっと焦った。だって私のこと知ってるとは思わなかったから。しかも、さっきの思い出したみたいな顔したのは、私の名前というか私のことを思い出したってことか。


「なんでって、睦美が言ってたからに決まってんだろぃ」

「むっちゃんが...」

「それによく部活中に取り巻きの女子たちにガン飛ばしてんじゃん」

「っ! そんなとこ見てたの!?」


うわあ恥ずかしい。そんなとこ見てるのなんて部活の仲間だけだと思ってたのに。ただでさえ今こんな緊張して話してるのに、ガンつけてるとこ見られてたとか帰りたい。今すぐ帰りたい。


「つーか、こんなとこで壁打ちすんだったら、オレとテニスしよーぜ」

「い、いや、それは断るっ」

「は?なんで?」

「だって、私そんなに上手く、ないし」


突然のお誘いだけど、全国レベルの丸井くんと私じゃ余りにも差がありすぎる。私が惨めな思いをするだけだ。でも、丸井くんはすごく不満そう。


「壁相手なんかより、天才的なオレと打ったほーが上達するぜ?」

「…それは…まあ、うん、確かに…」


自分で天才的とか言っちゃうあたりが苦手なんです。とか絶対言えない。でも、テニスが上達っていう言葉があまりに魅力的でついつい気持ちが揺れてしまった。ああ、でもやっぱり惨めな思いはしたくないし、断ろうかな、って思ったら急に手首を掴まれて歩きだす丸井くん。


「よし、決まりだな!さっさとあっちのコート行こうぜぃ」


丸井くんは見るからにうきうきしながら、私の荷物を持ってコートに向かっていく。私はあれよあれよという間にコートに立たされていた。ああ、なんて強引なんしょうか、君は。私は諦めてラケットを握りしめた。そーいえば、丸井くん今日部活ないのかな。いつものユニフォーじゃなくて、今日は自前のジャージっぽい。





「ねー!今日部活ないのー?」

「休み!」

「え、男テニにも休みあるの」

「あるに決まってんだろぃ。んじゃ、いくぜー」

「あ、うんっ」


丸井くんはたぶん私に合わせた緩さのサーブを打った。それを返して、何回かラリーを繰り返す。やっぱり人相手のほうがいいな、そう思って渾身の力でショットを打つ。そしたら、いつの間に前に出てた丸井くんに驚いた。


「妙技 綱渡り」

「へ、」


華麗な華麗すぎるボレーが決まった。いやいや、待ってなに今の。あれですか、必殺技的なやつですか。


「丸井くん!今のずるいって!」

「は?ずるいとかないだろ」

「もう一回っ!それ、絶対とるから!」


わ、なんだろこの気持ち。すごくやる気でてきた。私はにやけてしまうのを感じながら、エンドラインに立ってサーブを打った。





本日、テニス日和
(あー全然とれないっ!)
(そう簡単に取れるわけねぇだろぃ)
(じゃーどうしたらいい?)
(あー、もうちょい腰おとして)
(うんうん)
(前に体重かけっと、次の行動に移りやすいぜ)
(なるほどね!よし、じゃあもう一球!)


120405


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