おいかけっこ | ナノ



涼ちゃんとお互いちゃんと言いたいことを言って、後ろめたいものがなくなったからか、仲直りする前よりも距離が縮まった。これは断言できる。わかりやすく例を一つあげれば、涼ちゃんが家に泊まるようになったこと。さすがに毎日じゃないけど、家に来て次の日が土日ならたまにそのままお泊まりみたいな。と言ってもいまのとこ何回か程度。信頼関係が深まったなぁ、と感じる今日この頃です。


「陽っち!ちょっときて!」

「んーなに?」


まあ、昨日もそんな感じでお泊まりだったんだけど。朝起きて部活にいく準備をしてたら、ソファのほうから涼ちゃんに呼ばれ、ここ座って、と床に座る涼ちゃんの足の間を叩かれた。いや、すいません、そこハードル高いんだけど。これだから女慣れしてるやつは、とか文句を言いたかったけど、それを言ったらもめて遅刻してしまいそうだ。ここは大人しく座ることにする。私が大人しく座ると、涼ちゃんはブラシで髪を梳かし始める。


「涼ちゃん?」

「すぐ出来るはずなんで、ジッとしてて」


そう言って涼ちゃんは私の髪をいじりだす。私は涼ちゃんにされるがまま、終わるのをテレビのニュースを見ながら待った。始まってからそんに時間がかからずして、涼ちゃんの髪いじりが終了した。


「陽っち出来たっスよーっ」


やたら嬉しそうな声が聞こえて、そんなに満足のいく出来だったのかと思いながら合わせ鏡で後ろ髪を見た。


「え…なにこれ、」

「この前メイクさんがやってるの見て覚えてきたんス!」


すっごい涼ちゃんがご機嫌なのはいいとして。私の後ろ髪がどうなっていたかというと、耳の脇の髪を使って可愛らしいリボンが作られていた。いや、器用すぎるでしょ、涼ちゃん。


「…これで部活いくのは、ちょっと気合い入りすぎじゃない?」

「可愛いっスよ!やっぱ陽っち似合う」


質問と答えが違うけれど、このワンコスマイルの前じゃほどきたいなんて言えない。仕方ないので今日はこのまま部活に行くことにするか。てか、なにこの髪型めっちゃ可愛いんだけど。今度おしゃれして出かける時にやりたい。こういうのさらっとやっちゃう涼ちゃんムカつく。家を出るとき、ちょっとムカついたから涼ちゃんを一発叩いた。

学校に着いてからいつも通りに部活が始まる。今日は練習試合とかじゃないのでギャラリーは少ない。ここでゼロじゃないのがモデルってやつですか。そんなことを考えながらも部活はちゃくちゃくと進んでいく。
休憩時間になって、部員たちにドリンクを配っていると森山センパイに声をかけられる。


「陽ちゃん、オレもドリンクほしいな」

「あ、はい、どうぞ」

「ありがとう。…今日は可愛い髪型してるね」

「やっぱり気合い入りすぎみたいに見えます?」

「いや、そんなことないよ。すごく似合ってて可愛いよ。オレ今日は陽ちゃんのために頑張る」

「はは、自分のために頑張って下さいよー」

「陽!オ(レ)も今日可愛いと思った!」

「早川センパイもありがとうございます。はい、ドリンク」

「主将もそう思いますよね!?」

「ああ!?なんでそこでオレにふるんだよ!?」

「なんだ笠松、今日の陽見てなんとも思わないのか?」

「小堀、お前までなにを…」

「可愛いと思うぞ、なあ?」

「あの…センパイたちに褒めてもらえたんで、もう充分嬉しいです」


笠松センパイの困惑してる表情が分かって、助け舟というか、自分も褒められすぎて恥ずかしくなってきたところだったので、切り上げる意味も込めてそう言っただけなのに、笠松センパイの反発心に火をつけてしまった。ぐるっと振り返り、明らかに緊張して、顔も赤くさせながら私の肩を掴んだ。私はびっくりして笠松センパイを見上げるしかない。


「か、か、かかかかわ、かわっいい、と思うぞ!!白藤っ!!」

「あ、ありがとうございます…」


もうパンクしそうな笠松センパイは私から離れて、ぎこちない動きでどこかへ行った。それを見た森山センパイは笑ってるし、早川センパイはなぜか主将男らしいっす!とか言ってるし、小堀センパイは保護者的立場で優しい表情だし、一番まともな中村センパイは離れたところで呆れてる。涼ちゃんはというと、ものすごい勢いで近づいてきた。


「陽っち、センパイたちに可愛い可愛いってちやほやされすぎっス!」

「いや、これやったの自分じゃん」

「そっスけどー!」

「じゃあ、ほどく」

「それはダメっ」


ならどうしたらいいのよ、私。そんな疑問を口にする前に立ち直った笠松センパイから練習再開の怒号が響いた。


「と、とにかく、ほどいちゃダメっ、ちやほやされちゃダメっスからね!」


そう意味不明なことを言って涼ちゃんは練習に戻っていった。私はその難題をどうするか考えるハメになって、ため息をひとつ吐く。今日は長い一日になりそうだ。





わがままなワンコ
(黄瀬、すごい顔で見てたな)
(森山知っててやったろ)
(そういう小堀だってのったじゃないか)
(はは、たまには面白いかと思って)
(お前の場合、笠松をハメたけどな)




130615


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