笠松センパイと別れてすぐに陽っちに電話をかけたら、なぜか東京で桃っちと青峰っちと一緒だった。一瞬イヤな予感がしたけど、もう帰るところだったと聞いて安心した。話がしたい、と言えば陽っちはすぐに了承してくれた。陽っちが家で話そうと言ってくれたので、素直に頷く。オレは陽っちが駅につくのを改札口付近で待つことにした。
陽っちはいま一人暮らしだ。両親が海外で仕事することになったらしく、高校進学をきっかけに海常がある神奈川に引っ越してきた。ちなみに、両親がいつでも帰ってこれるように広いマンションに一人だ。それもあって高校に入ってから何回かお邪魔してたり、送って帰ったりしている。言っておくけど、なんの間違いも起きていない。
「お待たせ、涼ちゃん」
一時間経たないくらいで改札から陽っちが出てきた。なんか遠距離の恋人に久しぶりに会ったような感じだけど、実際そんなんじゃないのが悲しい。
駅を出てから陽っちの家まで、なんとも言えない気まずい空気の中歩いていく。とりあえず、青峰っちと桃っち元気だったとか、とりとめもない話をしながら時間をつぶす。
マンションの部屋に着くと、リビングのソファに二人で座った。けど、なかなか話を切り出せない。
「なんか飲み物もってくるね」
「ちょ、ちょっと待って」
立ち上がろうとした陽っちの腕をつかんだ。今日ちゃんと話すって決めたんだから、と自分を奮い立たせ口を開いた。
「その、この前はごめん」
「…なんで涼ちゃんが謝るの?」
「陽っちの話なんも聞かないで言い逃げしたからっス」
陽っちは本当に予想外だったらしくて、びっくりしたまんまだ。とりあえずソファに逆戻りさせる。オレ的にはここからが本題。ドキドキしながら陽っちのことをじっと見つめる。
「それでなんスけど、なんであんなこと言ったか聞きたいんス」
「………あれは、本当にごめん…」
陽っちは言いにくそうにしながらも、話し始めた。
「全中くらいから、みんなのバスケが好きじゃなかった。涼ちゃんのバスケも、好きじゃなかった」
「…っ、」
「自分しか信じないバスケなんて、そんなつまんないバスケして欲しくなかったの。もっと、バスケ始めたときって楽しそうだったのに、」
「陽っち、」
「だから、負けてくれれば変わってくれるかなって、気がついてくれるきっかけになればいいと思ってたから、負けてほしいって…ごめん、こんなのひどいよね」
「陽っちって、黒子っちみたいな瞳してるっスよね」
「え?」
本当に申し訳なさそうな顔をしている陽っちをなだめるように頭を撫でる。そんなにオレのことを考えてたなんて、近くにいたのに全然気づかなかった。それなのにオレは何も考えないで傷つけた。
「ごめん、陽っち。オレそんなこと全然知らなくて、オレひどいこと言って」
「涼ちゃんが謝るのはなんか違う気が…」
「違くないっス。オレ黒子っちのとこいけばいいとか、せっかく一緒にきてくれた陽っちに言ったっスもん」
「それは、」
「いーから、聞いて」
まだ何か言いたそうな陽っちを黙らせて、両手を包み込む。いまスゲー心臓早いかもしんない。
「黒子っちのとこいけばいいとか、子どもじみたこと言って本当ごめん。そんなこと全然思ってないし、オレには陽っちが必要っス。だから…その…これからもオレについてきてほしいっス、ダメっスか?」
「…もちろんじゃん。涼ちゃんが一番心配だからついてきたんだよ、私」
「じゃ、今度こそオレの味方でいて下さいっスよ?」
そう言ったらいつもみたく笑った陽っちにオレは、まだオレの傍にいてくれるという安堵感に包まれた。誰よりも特別な女の子だから、下手に手出しができなくて、どんな女の子よりもすごく近いのに、離れていってしまいそうな不安定な距離感にオレは甘えている。
陽っちは確かにデキる。だけど、そのスキル以上に人を惹きつける才能がある。そんなのキセキがほっとくわけがない。オレもその魅力に惹かれた一人だ。いつからとか、きっかけとかは覚えてない。けど、気がついたら傍にいてほしくて、手放したくない存在になっていた。だから、オレはキミの優しさにつけ込んで、傍に束縛しているだけ。いまはまだ、独り占めできているという勘違いにひたっていたいだけ。
どうしても手放せない
(ずっと大切にする)
(もしも、オレの隣から)
(いなくなったとしても)
130614