陽っちに負けてくれてよかったと言われてから数日経った。あれからオレはろくに陽っちと話していない。そして、オレはすごく後悔している。カッとなったとはいえ、あれはない。マジでない。陽っちが黒子っちのとこ行けばいいなんて、微塵も思ってないのに。むしろ、陽っちが海常にきてくれてホントに嬉しかった。なのになのになのに、オレってばなんであんなこと口走ったんだよ。
「どーしましょー笠松センパイー」
「るっせぇ!メソメソすんな!」
ダン、と笠松センパイは持っていたドリンクをテーブルに叩きつけるように置いた。いまは部活終わりに笠松センパイとマジバに寄って、ポテトをつまみながらお悩み相談中だ。笠松センパイは苛立ちながらもちゃんとオレの話を聞いてくれている。
「そんなの謝ればいいだろ。ひどいこと言ったんだろ?」
「でも、陽っちが負けてくれてって…」
「じゃあ、お前はなんで白藤がそんなこと言ったか聞いたのか」
「…聞いてないっス」
「理由もちゃんと聞かねぇで、自分の意見を言うだけ言ったお前が悪い」
「んん、」
笠松センパイマジ男前。これでホントに女子苦手なんスか。説得力ありすぎで反論の余地もない。
「言い逃げとか、男らしくねぇだろ」
はい、トドメのひと言いただきました。ぐうの音出ないっス。笠松センパイよりも確実に女子に対する経験値があるはずなのに、完膚無きまでたたきのめされた。さすがは主将、男前度が違う。
「つーか、このまんまならマジで白藤どっかいっちまうんじゃねぇ」
「それはイヤっスっ!!」
「…白藤がデキんのはわかるけど、それにしたってお前ずいぶん入れ込んでるよな」
「だって、他のキセキ全員からも一緒にきてくれって誘われてんのに、その中でオレを選んでくれたんスよ…手放せるわけないっスよ!」
「黄瀬…お前、白藤のこと好きなのか」
「…え、いまの話については」
「森山が言ってた通りだったみたいだな」
「え、森山センパイ気づいてたんスか!マジっスか!」
そんなにバレバレだったなんて思ってもみなかった。いや、それもあるけど森山センパイに気づかれてたとか、マジでか。その衝撃が消化できない。気づかれないように気をつけてたはずなのに。
「お前マジでバカだな。てか、ガキ」
「ひでぇっ!」
「そりゃそうだろ。ムカついて他のヤツんとこ行けばいいとか、ガキの駄々と変わらなねーよ」
ズズッと笠松センパイはドリンクを飲み干して今度はそれをそっと机においた。
「このまんまだったら黒子だっけか、マジでそいつんとことか行っちまうんじゃねぇの」
「それは、」
「イヤなんだろ?放したくねぇんだろ?だったら、早く謝れ、メンドクセーな。そんでちゃんと話ししろ」
「…ウス」
すでに買ったポテトとかドリンクは空っぽになっていて、時計をみたらけっこう時間が経っていた。帰っか、と笠松センパイに言われて二人で店をでた。
「センパイ、今日ありがとうございました」
「マジ疲れたっつーの」
「スンマセン。あと、オレちゃんと陽っちと話します」
「そーしてくれ」
無愛想だけど、ちゃんと付き合ってくれるし、ちゃんと叱ってくれる笠松センパイが自分のチームのセンパイで本当によかったと思う。そう実感しながらオレはポケットからケータイを取りだした。
主将のお悩み相談室
(あ、センパイっ!)
(なんだよ)
(好きってこと内緒っスよ!)
(わかってるよ!シバくぞ!)
(なんで!?)
130613