おいかけっこ | ナノ



"大富豪しよう"

そう言ったのは森山由孝だった。そして昼休憩中に行われた、レギュラー陣と白藤陽による大富豪大会は午後練にささやかな影響を及ぼすのだった。

結果から言えば、三戦中三戦全勝したのが言い出しっぺの森山由孝であり、逆に全敗したのが白藤陽だった。
大会というか、そこは体育会系の流れなのか罰ゲーム付きの大富豪だったので、必然的に陽は大富豪の森山の下す罰ゲームを受けることとなった。


「ゆ、幸ちゃん次のメニューなんですけど」

「………ああ」

「陽、テーピング頼めるか?」

「いま行きます…浩ちゃん」


森山が下した罰ゲームとは、いつも陽が黄瀬を呼ぶようなちゃん付でレギュラー陣を呼ぶというものだった。
笠松は幸ちゃん呼びされると恥ずかしそうにするが、小堀や早川は満更でもないようだった。


「陽ちゃん、次オレもいいかな」

「はーい、由孝さん」

「…なんで森山センパイだけ」

「中村、それはオレが大富豪だからだ!大富豪はいい思いするものだろう!」


ドヤ顔で言った森山にそーすかと中村はさほど興味もなさそうに返事をした。

(ただの名前呼びでこんな喜んでもらえるなんて、安い大富豪だなぁ)

森山にマッサージをしながら陽は心の中でそう思った。


「そういえば由孝さん、結局涼ちゃんのこと何て呼べばいいんですか?」

「あーそうだなぁ」

「犬でいいんじゃないですか?」

「真ちゃん、それはあんまりですよ」

「はいっ!はいっ!キセワンコ!」

「みっちゃんまでも犬扱いですか!」

「笠松ー、お前はなにがいいと思う?」

「あ?んなもん、テキトーにフルネームでいいだろ」

「それじゃ面白くないだろ。小堀は?」

「そうだな、モデル犬とかか」

「…まさかの浩ちゃんまで」

「陽ちゃん、決めたよ」


森山は陽を手招きし、耳打ちした。陽はそれを聞き終わって、半ば諦めの表情だった。
そして、先ほどから一人この輪に入ることを禁止され、うずうずとずっと見ていた黄瀬の元へ陽は近寄った。


「陽っち!やっと決まったんスか!…で、なんて?」


呼び名が決まれば黄瀬もみんなの輪に入れるため、キラキラしながら陽を見つめる。陽はその視線を受けながら、重たい口を開いた。


「…わんわん」

「へ?」

「だから、わんわんっ」

「…え、もしかして今日一日オレそれ?」


驚く黄瀬に陽は頷いた。

(マジかよ!オレだけ全然関係ないっ!でも、わんわんて言う陽っち激カワ!)

ショックもさることながら、陽がそう呼ぶことが可愛いという衝撃もあり、複雑な胸中の黄瀬だった。


「黄瀬ーっ、早くこっちこーい」

「はいっス!」


森山に呼ばれて黄瀬は慌てて駆け寄っていった。そして、ガッと肩を組まれこそこそしながら森山は黄瀬に話しかける。


「どうだ、オレの考えた呼び名は」

「森山センパイ、」

「ん?」

「ありがとうございますっ!陽っちめっちゃ可愛いっス!」


グッと親指を立てた黄瀬を見て、森山もぐっと指を立てて応えた。そして、森山は「ホントこいつバカだな」とこっそり思っていた。




たまには、いいじゃないか
(わんわん、由孝さん!練習再開するって幸ちゃん言ってますよー!)
(陽でけぇ声で幸ちゃんはやめろ)
(いま行くよ、幸ちゃん)
(森山シバく)



130624


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夏休みなのにバスケばっかで、なんか面白いことがしたかった森山さん。
よしたかって響きが好きで、言わせたいだけでした!


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