初めまして、白藤陽です。私はいま走ってます。どこに向かっているかというと、誠凛高校。今度、私が通う海常高校と練習試合をする対戦校です。で、なんでそこに向かって走っているかというと、うちの大型ワンコもとい、エースの黄瀬涼太の回収。
あいつ練習試合の相手が誠凛って聞いてからやけにそわそわしてて、今日だってオフなのに仕事キャンセルしたみたいだった。となると、そこから導き出される答えなんてひとつに決まってる。絶対黒子テツヤことテッちゃんに会いにいったに違いない。ああ、変なことしてないといいけど。そんな心配をしながらも、校門をくぐって新しい校舎を横目に体育館へと急いだ。
体育館にたどり着くと、案の定、彼はいた。しかも、ひとバスケした後のようで、相手の赤い髪の男の子を吹っ飛ばしたのか男の子は尻もちをついている。私が声をかける前に、やつはとんでもないことを口走っていた。
「やっぱ黒子っちください」
「……!?」
「海常おいでよ。また一緒にバスケやろう」
この言葉にさすがに全員絶句だった。もちろん私も。コロ…と、足元にバスケットボールがあたり、気を取り直した。あいつ何言ってんの。
「マジな話黒子っちのことは尊敬してるんスよ。こんなところじゃ、宝の持ち腐れだって! ね、どうスか」
そんな言い方あんまりじゃない。率直にそう思った。そして、おもむろに足元のバスケットボールを拾い上げる。
「そんな風に言ってもらえるのは光栄です。
丁重にお断りさせて頂きます」
「文脈おかしくねぇ!?」
「おかしいのは、お前だドアホーっ!!」
「いてっっ!!」
私が思いっきり投げたボールは見事に彼の頭にヒットした。そのせいで今度は私に注目が集まったけれど、そんなことは気にしない。そのままコートのほうにお邪魔して、うずくまっている大型ワンコのもとへ歩み寄る。
「なにしてんの!涼ちゃん!」
「陽っち、マジ痛いんスけど…」
「お久しぶりです。陽さん」
「あ、テッちゃん久しぶり。ごめんねー涼ちゃんが変なこと言って」
謝る私にテッちゃんはいえ、と首をふる。よかった気にしてないみたい。でも、まだ納得してない涼ちゃんはすくっと立ち上がり、もう一度テッちゃんにつめよった。
「そもそもらしくねっスよ!勝つことが全てだったじゃん!なんでもっと強いトコ行かないの?」
「あの時から考えが変わったんです。何より火神君と約束しました。
キミ達を…「キセキの世代」を倒すと」
テッちゃんの目は本気で、固い決意のようなものがみられた。涼ちゃんは半ば信じられないようだったけれど、私は言い切ったてっちゃんに希望のようなものを感じた。
本気ですと言ったテッちゃんと涼ちゃんの間にピリっとした空気が流れる。私はため息をついて2人の間に割って入る。
「はーい、そこまで。話合いで分かり合えないなら今度の練習試合のときにぶつかりなさい」
「陽っち…」
「もー帰るよ涼ちゃん。これ以上誠凛のみなさんのジャマしないの」
「陽さん、」
「テッちゃん、手首のケアもう少し入念に。あと、脚のストレッチ甘いから気をつけてね」
「…はい、わかりました」
「それじゃあ、すいません。おじゃましました」
ぐいぐいと涼ちゃんの背中を押しながら、私たちは体育館を後にした。
誠凛からの帰り道、涼ちゃんはなにやら不満気な様子で隣を歩いている。まあ、だいたい察しはつくけど。
「なーに、ふてくされてんの」
「オレ黒子っちが理解できねっス」
「…そうだろうね。でも、きっとわかるときがくるよ」
「なんスか、その言い方。陽っちは黒子っちのことわかるってことスか」
「なんとなく程度だけど」
実際、テッちゃんと私は似たような考えを持ってる。本音を言ってしまえば、いまの涼ちゃんは好きじゃない。私は出会ったころの涼ちゃんのほうが好きだった。いまの涼ちゃんは、遠すぎて、好きじゃない。でも、そばにいたい、彼は泣き虫だから。そんなずるくて、矛盾を抱える私はこの隣から離れることができない。
「わけわかんねぇっス!黒子っちにはやっぱ甘いし…」
「同じ元帝光中バスケ部のチームメイトで、レギュラー陣は特別だから仕方ないじゃん」
「じゃあ、陽っちは誰の味方なんスかー!」
「そんなの、涼ちゃんに決まってるでしょー」
「…絶対スよ?」
まるで仔犬のような目で見つめてくるから、笑っちゃった。はいはいって、返したらすっと小指を出された。なんだろうと思って涼ちゃんを見上げる。
「指きり、しよ?」
「は、なんで?」
「約束にはつきものっス!」
なんだかよくわからないけれど、私は涼ちゃんの小指に自分の小指を絡めた。そうしたら何か嬉しそうにゆびきりげんまん、と歌い始めた涼ちゃんにまた笑ってしまった。
すき、すきじゃない
(応援してるよ、涼ちゃん)
(それは本当だけど、)
(今は負けてほしいって思ってる)
130607