おいかけっこ | ナノ



よく晴れた、夏休みもそろそろ終わりに近づいたある日。午前練だけで終わりだった今日、陽は買い物がてら東京に遊びに来ていた。

去年まで住んでいた土地なので、陽はお気に入りの路地を慣れたように歩いていた。路地の先ではなにやら通行人がチラチラと同じ方向を見てながら歩いていた。
陽は好奇心の赴くままその視線の先に真っ直ぐ向かった。そして、そこにいたのは陽がよく知る人物だった。


「あっちゃん!」

「あ、陽ちんだー」


間延びした話し方をしながらお菓子をもぐもぐ食べているのは紫原敦だった。陽はその姿を見つけるとすぐさま駆け寄って、自分より約50cmほど背の高い紫原を見上げた。


「なんでいるのー!なにしてたのー?」

「んー、なんかぁ、室ちんが東京観光したいっていうからついてきたんだけどーお菓子に夢中になってたらはぐれた」

「室ちん?」

「新しいチームメイトー」


紫原はまいう棒を食べながら陽にへにゃりと笑った。陽もそれにつられて笑顔になる。陽はこのゆるい性格の紫原が好きだった。


「アツシっ!ここにいたのか」

「あ、室ちん」

「急にいなくなるから探したよ」


紫原が誰かに話しかけれ、陽は噂の室ちんだ、と思い振り返った。しかし、そこにいる面々に陽の顔が引きつった。


「アツシが女子と一緒とかマジか」

「な、なんでお前そんな可愛い子と知り合いなんじゃぁ!」

「アゴリラうるさいアル」

「ワオ、これは驚いたな」


陽に興味を示した陽泉のレギュラーたちはわらわらと陽を囲うように群がった。

(いや、情報としては知ってたけど、まさかここでスタメン全員に会うとは…デカすぎるでしょう!)

陽はぐるっと上を見渡せば2mオーバーの男子三人の持つ圧迫感しかなかった。


「こんにちわ、陽泉のみなさん」

「陽ちん、なんで福ちんのとこにいったの」

「…安心感」

「どーゆーイミだ、それ」

陽は陽泉の中でも一番背の低い福井の隣にすっと移動していた。陽は自分の高校の主将である笠松と同じくらいの背丈の福井に漠然とした親近感を勝手に抱いていた。
しかし、それが面白くない紫原は陽の腕を引っ張り自分の腕にお菓子が入った袋ごとすっぽり収める。


「陽ちんはこっちでしょー」

「はいはい、ごめんね」

「…えっと、どちら様かな?」

「あ、ごめんなさい。わたし白藤陽って言います。海常高校一年生でマネージャーやってます。あっちゃんとは同じ中学でした」

「あっ、ちゃん…!」


陽が丁寧に自己紹介を済ませると、岡村はその親しげな愛称に衝撃を受けていた。他のメンバーはよろしく、と陽に声をかける。


「ワシらも自己紹介じゃな」

「あ、大丈夫です。みなさんの個人データは記憶してるので」

「は、マジかよ」

「主将でPFの岡村建一さん、副主将でPGの福井健介さん、中国からの留学生のSF劉偉さん、ですよね」

「すごいアルな。あとゴリラは女子に名前呼ばれて喜んでるとかキモいアル」

「ひどいっ」

「でも、あなただけ知らないんですよね」

「僕?」


陽は視線を氷室に向ければ、氷室は人当たりのいい笑みを浮かべた。


「氷室辰也、高校二年生だよ。最近、日本に帰国して陽泉に入ったばかりなんだ」

「帰国子女だ!でも…氷室さんって、なんか計算高いって感じですね」

「ふふ、褒め言葉として受け取っておくよ」


氷室はまたにこりと笑う。陽はがさがさと袋を漁る紫原に気がつくと、袋の中から棒付きキャンディーを取り出し、包装紙を剥がし頭上にいる紫原に向けて差し出した。


「はい、あーん」

「んー」

「あっちゃん、飴噛んだらダメだよ。ちゃんと舐めなさい」


少し不服そうな眼差しを向けた紫原だったが、すぐに素直に飴を舐めはじめる。それを見た陽は手を伸ばしほっぺをふにっとつついた。


「えらいねー」

「…子ども扱いすんなし」

「おいおいマジかよ。アツシが素直だぜ」

「なんて女アル」

「君はアツシのガールフレンドなの?」

「違いますよ」


陽の紫原の扱いがあまりにも自然で違和感がなく、その上、紫原に後ろから抱きしめられたままで良しとしている陽を見れば誰でも勘違いしそうである。


「なんじゃ…紫原まで女子にモテおって!」

「そんなんじゃねーしー」

「こら、あっちゃん先輩にはちゃんと敬語使いなさいって言ってるでしょ」

「…むー」

「もしかして、陽がいたらアツシの扱いかなり楽なんじゃね」

「同意見アル」

「陽ちん秋田に持って帰りたいー」

「あはは、涼ちゃんが入部してなかったら、たぶんあっちゃんについて行ったと思うな」

「…ちょっと黄瀬ちんひねり潰してくる」


シャレにならならいトーンで呟いた紫原を岡村が慌てて止めようとするが、岡村の制止よりも陽が新たに差し出したお菓子によってその怒りはあっさりと収まった。


「陽はすごいアル」

「ねぇ、陽さん、時間空いてる?よかったら東京案内してくれないかな?」

「私でいいんですか?」

「うん、君が一番この中で詳しそうだから」


ぐるっと見渡せば、帰国子女と留学生、そしてあまり東京には詳しくなさそうな主将と副主将、東京出身ではあるが詳しいのは駄菓子屋など偏っている元同級生。
陽は納得したように頷いて、氷室の申し出を快く受け入れ、「じゃあ、行きますかっ」と言って大男たちを引き連れ東京観光へと繰り出した。





囚われの宇宙人
(陽ちん、マカロンあーん)
(ん、ありがとー)
(アツシが人にものあげるなんて)



130623


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陽泉のみなさんと。あれです。ストバスの大会の次の日くらいのお話です。
夢主は中学からふつうにハグされてたので、別に普通のことです。むしろ、見つけたら自分から抱きつきにいくこともあります。




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