「だから負けるならまだしも、オレだけあきらめるわけにはいかねーんスわ」
「敗因があるとしたら ただ まだ力が足りなかっただけっス」
海常高校は、98-110で桐皇学園に敗れた。だけど、誰一人として試合を諦めた人はいなくて、会場から拍手が自然と沸き起こった。それほどに素晴らしい戦いだった。
誰もが悔しがり、そして、強くなろうと心に決めた。全ては冬に向けて。
試合後、私は涼ちゃんを家に連れていった。涼ちゃんは全然乗り気じゃなかったけど、半ば無理矢理連れてきた。そうするだけの用事が私にはある。
いつものようにソファに腰掛ける涼ちゃん目の前に座り込んだ。そして、おもむろに脚を掴む。
「脚、痛めてる」
「…このくらい平気っスよ」
「こーゆーのほっとくのが一番いけないの!言うこと聞けっ」
そう言うや否や、ジャージを捲り上げて脚をマッサージし始める。涼ちゃんは観念したようにソファにもたれ、大人しく私に身を任せていた。
キセキのコピーにかかる身体の負担は計り知れない。入念にケアしてもしきれない。それに試合を頑張った涼ちゃんをサポートするために私はいるのだから、ここで頑張らないでいつ頑張るのよ。そう意気込みながら丁寧にケアをする。最後に念のためにテーピングを巻いて終わりだ。
「涼ちゃん、終わったよ」
「…ん、ありがとうっス」
私は涼ちゃんを見上げる。その表情は浮かなくて、どう見ても落ち込んでいる。無理もないことだ。でもね、私の前でそんな我慢しなくていいのに。
私はいろいろ耐えきれなくなって、涼ちゃんに向けて両手を伸ばした。そして、涼ちゃんに勢いよく寄りかかるようにして抱きしめた。顔は見えないけど、たぶん涼ちゃんはびっくりしてるだろう。
「…え、陽っち?」
「いーよ、」
「え?」
「そんな我慢しなくていーよ、泣きたいなら泣いて、言いたいことがあるなら全部はき出して、」
「………」
「私の前で無理しないで。かっこつけなくていいから……ここに、いるから」
ここまで言って初めて、拒絶という言葉が浮かんだ。こんなことされて迷惑だったら、本当は嫌がっていたら、今更になって不安が湧いてきて、とりあえず身体を離そうと思って腕を緩くした。けれど、そのとき涼ちゃんが私の腰をぎゅっと抱き寄せる。
「…あり、がと…」
小さな声で呟いた涼ちゃんの口からは、だんだんと嗚咽がもれ始める。私はもう一度、腕を首に巻きつけて、ただ何も言わずに泣きじゃくる涼ちゃんを抱きしめた。
ガーベラを抱きしめて
(私が全部受けとめる)
130622
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ガーベラ:希望、悲しみ、辛抱強さ