おいかけっこ | ナノ



桐皇学園との試合当日。あと20分ほどで試合が始まってしまう。それなのに私は控え室ではなく、会場から少し離れたところを走っていた。全くギリギリになってお使いを頼むんじゃないよ、監督。会場のすぐそばにある公園を抜ければ近道になる。急いで通り抜けようとすれば、どこからかボールをつく音がした。何となく気になってそこへ行ってみれば、一人でアップをする大ちゃんがいた。

驚いたのものあるけれど、それよりも大ちゃんの気迫が凄まじかった。試合始まるよ、早く行きなさい、いつもならそう言えるのに、今は喉が詰まって声もでない。

(オレに勝てるのはオレだけだ)

そう言った大ちゃんの声が耳に纏わりついたように離れない。そんなことないよって言っても私の声は大ちゃんには届かない。胸が苦しい。一人になっていった大ちゃんを、ずっと傍で悲しそうに見つめるさっちゃんの姿を思い出す。大ちゃんが勝った瞬間に目を背けるそうになったさっちゃん。そんな顔しないでよ、そう言ってもさっちゃんは無理やり笑うだけだった。

誰か、大ちゃんを止めて。ねぇ、涼ちゃん。

私は耐えられなくて、大ちゃんに何も声をかけずに会場へ走った。だって、あそこにいる大ちゃんは、大ちゃんじゃないから。

控え室に着いたのは開始5分前だった。息を切らしながら廊下を走って海常の控え室を目指す。曲がり角を曲がろうとしたとき、聞き慣れた声がした。


「そん時にオレは決めた。償えるとは思ってねぇ、救われるつもりもねぇ、
それでもI・Hで優勝する。それがオレのけじめで、主将としての存在意義だ」

「ふーん。まぁオレは青峰っちに初勝利が目標ってぐらいっス」

「あっそ」

「まあ…死んでも勝つっスけど」

「あっそ」


笠松センパイと涼ちゃんのその会話を聞いて、私はその場から動けなくて、ゆっくり深呼吸を繰り返した。肺の中の空気を全部吐き出すように息をはいて、顔をあげた。


「うん、いこう」


私は海常のみんなの努力を知っている。きっと、やってくれる。そう言い聞かせて、私はまた小走りで廊下を進んだ。


だけど、そのときの私は大ちゃんの凄さを勘違いしていた。





容易く触れられない野薔薇のように

(理屈で本能抑えてバスケやれるほど大人じゃねーよ!)(憧れるのはもう…やめる)

(いっちょ前に気ィ遣ってんじゃねーよ)
(そんなヒマあったら死にもの狂いでかかってきやがれ)

(信じてるさ、とっくに)

(海常痛恨の無得点!!千載一遇のチャンスを逃したー!!)

(オレのバスケは仲間を頼るようにはできてねぇ)



130622

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野薔薇:孤独、才能、天才


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