「あ」
「あ」
「お疲れ様です。中村センパイ」
「お疲れ」
自主練の時間に部室で対戦校の資料整理をしていたときに入ってきた中村センパイは自分のロッカーを開けた。そして、私のことを気にすることなく着替えを始めた。まあ、背中を向けあっているからいいのかな。私も気にすることなく作業を進める。
「今日はもう上がりですか?」
「用事あってね」
「最後マッサージしましょうか?」
「…じゃあ、頼もうかな」
作業を止めて振り返れば、汗をさっぱり拭いたばかりの上半身なにも着てない中村センパイが中央に置いてあるベンチにすでに腰掛けていた。
「寝て下さい」
「ん」
ベンチに片膝をついて、中村センパイの背中をゆっくりとマッサージし始める。
「…く、やっぱ上手いな、」
「一応特技なんで、」
力を込めながら丹念に疲れた身体をマッサージしていく。もちろん背中だけじゃなく脚もマッサージする。5分ほど経ったとき、ぐっと力を入れた瞬間ぴきっとイヤな音がした。
「っつぁ!!」
「?どうした陽」
「足攣りました…」
はい、イヤな音がしたのは私の足です。中村センパイは身体を起こして私の足を覗きこんだ。私はベンチになんとか座って足を伸ばそうとする。
「かしてみろ」
「んっ、」
中村センパイが私の前にしゃがみ込んで、シューズとくつ下をするっと脱がせた。そして、ぐいっと半ば無理やりに伸ばされた。
「ーーっ!いっ、」
「暴れるとパンツ見えるぞ」
「誰の、せえ、だとおも、いたっ、もうちょ、優…しく」
「お前ここ靴擦れか」
「ひゃあっ!な、んで触、」
最近買ったばかりのサンダルを昨日履いて出かけたら見事にやってしまった靴ずれのところを中村センパイはぐにっと押した。なにこの人ごめんとか言いながら楽しそうなんですけど。中村センパイ、ドSだったんですね。いろいろ痛くて涙滲んできた。
「いた、あ、やあ!もぉ…無理っ、な、かむ…っ!」
「え?なに?」
超楽しそうですねっ、あなた!睨んでみても中村センパイは楽しそうな笑顔を崩さない。
「ちゃんと言わなきゃ、わからないだろ?」
「…っ、だからぁ、もぉ…やっ」
「ちょ、ナニしてんスかーっ!」
バーンとドアを叩きつけるように登場したのは、赤いのか青いのかよくわからない顔色の涼ちゃんだった。涼ちゃんはこの状況を見て目をパチクリさせる。
「なにって、陽が足攣ったっていうから伸ばしていただけだけど?」
「…え?」
「そろそろ大丈夫そうだから、オレは帰るな」
「中村、センパイ…!」
「これ以上イジメたら、番犬に噛まれそうだしね」
あ、ついに認めやがりましたねセンパイ。私は中村センパイにやられたダメージがデカすぎてまだベンチから動けない。中村センパイはさっさと着替えてさっさと荷物を持って爽やかな笑顔を浮かべて部室を出ようとしていた。
「陽、気持ちよかったよ。また頼む」
「…ええ!?ちょ、なんの話っスか!?」
「涼ちゃん違うから。中村センパイは次、覚えておいて下さいよ…!」
捨てゼリフを吐いてみれば、中村センパイはニヤリと笑って部室をでていった。バタンと扉が閉まった瞬間、涼ちゃんが詰め寄ってきたけれど、私は中村センパイに勝てる気がしないという事実に打ちひしがれていた。
メガネの先輩マジ怖い
(涼ちゃん、とりあえず動けない)
(…足かして)
(なぜ)
(オレもする)
130619
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中村センパイがSだったらいいなっていう願望でした。ごめんなさい。