おいかけっこ | ナノ



今日は貴重なオフ。土曜だから丸々一日休みだ。そんな日に私はなにしてるかというと、部活で必要な備品の買い物である。別に強制的にやらされてるわけじゃない。たまたま昨日チェックしたら切れてるものとかがたくさんあったから買いにきてるだけだ。

大型ドラッグストアで昨日のうちにメモしておいたリストを見ながら、商品をカゴにいれていく。あんまり来たことがないお店だから探すのに手間取ってしまうけど、今日は時間もあるしいいか。なんて思いながら店内をぐるぐるしていたら、思わぬ人物を見つけてしまった。


「あれ、笠松センパイ?」

「…白藤」


お買い物中の笠松センパイにとりあえず挨拶をする。笠松センパイはサポーターを買いに来てたみたいだった。


「お前なにしてんだ?」

「備品の買い物に来てました」

「…そうか、悪いな。休日まで」

「いえ、好きでやってるんで平気です」


そう言うやいなや笠松センパイは私の持ってるカゴを奪っていった。あれ、これは持ってくれるということですか。そう思ってちらっと笠松センパイを見たら、照れくさそうにして視線を合わせてくれない。その変わりにぶっきらぼうに一言。


「このくれぇ、当然だろ」

「…ありがとうございます」


ふん、と鼻を鳴らした笠松センパイにばれないよう少し笑ってしまった。笠松センパイって本当に男らしいのに、女の子に対してとことん不器用だよなぁ。多分このまま買い物に付き合ってくれる笠松センパイに、絆創膏がほしいです、と言えばわかったと言って私の前を歩いていった。

笠松センパイとの思わぬ遭遇のおかげで買い物が早く終わった。お店を出るとよく晴れていて、じんわりと汗をかくくらいに暑い。買った備品をそのまま学校に持っていこうと考えてたのは笠松センパイも同じだったようで、なにも言わずとも買い物袋を持って私たちは学校まで歩きはじめた。


「すいません、笠松センパイ」

「大丈夫だ」

「今日予定とか大丈夫ですか?」

「ああ」

「じゃあ、私と一緒ですね」


そういえば笠松センパイと部活以外で話すのって初めてだ。予想してたけど、話ふらないと会話が生まれないほどに女の子と話し慣れてないんだなぁ。どっかのモデルとは大違いだよ。半歩先を歩く笠松センパイは笠松センパイなりになにか考えてるみたいだけど、よく顔が見えない。だって、笠松センパイの歩く速さは気を抜けば置いて行かれそうなスピードだ。


「…今日は黄瀬と一緒じゃないんだな」

「え?あ、はい。今日はモデルの仕事があるって言ってました」


びっくりだ。まさか笠松センパイから話かけられるなんて。しかも、世間話、でいいんだよね。お互いの共通の話題なんて確かにバスケ部関連しかないし。その中でもなぜチョイスが涼ちゃんなのかは、まあいいか。同じ中学出身とかそんなとこだろうし。


「ていうか、私いつも涼ちゃんと一緒ってわけじゃないですよ?よく一緒にはいますけど…」

「…付き合ったりしねぇのか」

「……ないですねぇ」


今日は笠松センパイに驚かされてばっかりだ。だって、笠松センパイが恋愛の話するとか、明日雪なんじゃないかな。これ言ったらさすがにシバかれると思うから、ぐっと堪える。

その質問してきた笠松センパイは意外そうな顔で私をみた。なんで、そう言いたげなのが手に取るようにわかる。


「私は今のままで充分ですから」


他の女子たちとは別格で、涼ちゃんの隣にいられるこの距離でいい。これ以上は望んでも手に入らないし、望んだら壊れてしまいそうだから。

笠松センパイはどこか複雑な表情を浮かべていたけれど、それよりも私の視線は涼やかなコンビニに釘付けになった。笠松センパイにちょっと待ってて下さいと言って、ダッシュでコンビニに入りアイスを二つ買って出た。


「笠松センパイっ、ソーダ味でよかったですか?」

「あ、ああ。悪い」

「今日のお礼ですっ」


アイスの袋を開けて笠松センパイに渡せば、ありがとな、と言ってくれた。普段あんまり見ることのない笠松センパイの姿にすごく新鮮さを感じる。二人でアイスを食べながら、また学校へ向かう。私服で笠松センパイと歩いてるって変な感じだな、とつくづく思う。


「なんかこうしてると、それこそ付き合ってるようにみえません?」

「ブハっ、な、なに言ってんだっ!」

「冗談ですってば」


予想以上に面白いリアクションを返してくれるセンパイに思わず笑ってしまう。顔を赤くさせながら、シャリシャリと豪快にアイスを食べる姿はどう見ても照れ隠しで、また笑えて仕方ない。


「なに笑ってんだ、白藤」

「ええーだって、センパイ面白くって」

「あのなぁ!」

「というかセンパイ、そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃないですか?」

「あ?なんで急にそうなる」

「苗字で呼ばれるの好きじゃないって言ってるじゃないですかー」


アイスの最後一口を食べ終えたところで、ちょうど学校に到着した。そのまま部室のほうへと向かう。周りからは活気あふれる声やら音がいたるところから聞こえてくる。そんな声を聞き流しながら私は話を続ける。


「それに、なんか今日けっこうフツーに私と話せたじゃないですか」

「それは、まあ…」

「じゃ、陽って気軽に呼んで下さいよ。みんなもそう呼んでますし」


借りてきたカギを使って部室の扉を開ける。そして、買ってきた備品を救急箱や、ストックを閉まってあるボックスに補充していく。その間、笠松センパイは領収書を整理しながら唸っていた。そんなにハードル高いかな。いやでも、女の子苦手って言ってたから、これを機に苦手を克服する足がかりにでもしてもらいたい。
備品を片付け終え、戸締りをして部室を後にした。帰り校門をくぐったところでさんざん唸っていた笠松センパイがようやく口を開いた。


「…名前呼びは………やってみる」


センパイなりに考えぬいた答えに私は素直に嬉しかった。だって、笠松センパイとの距離が縮まったってことだから。


「はい、お願いします」


笑って返せば、困ったように照れながらセンパイも少し笑ってくれた。





青色の休日
(笠松っ!昨日可愛い女の子と歩いてらしいじゃないか!)
(えぇ!?マジっスか!)
(あれは、陽だよ。昨日たまたま会っただけだっつーの)
(…え、センパイ名前…)
(こ、これは!あいつが名前で呼べって!)
(ホントにそれだけか?)
(そーだよ!!てか、黄瀬テメェはもっとしっかりしやがれ!シバくぞ!)
(急に理不尽っ!)




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