私の好きな人、忍足侑士。氷帝のテニス部レギュラーで、女の子みんなに優しいから女子からの人気は絶大。そんなクラスも別な彼だけど、何気によく話す仲である。からかわれてるのが大半だけど。
「おー今日もちっさいなぁ」
「……小さくないし」
そう、彼が私に頻繁に言ってくる“小さい”って言葉が嫌がってる風だけど、実は嫌じゃない。私はごくごく平均的な身長で、このぐらいの身長なんて周りにもたくさんいる。けど、私にだけ言ってくるのが嬉しかったりした。
「あ、忍足ーノート貸して!」
「んーええよ」
「ありがと!すぐ返すね」
そのままノートを借りて別れた。その日の昼休みまでにノートを写し、さっさと返しに忍足の教室に向かうと、廊下で忍足と女子が話しているのが見えた。忍足は私に気づいていない。内心イヤな気持ちで近づいていく。昼休みで賑わう廊下だけれども、少し二人の会話が聞こた。
「忍足くんっておっきいよね!」
「んーそうかぁ?てか、よく見たらお前ちっさいなぁ」
正直、聞きたくなかった。
「忍足!」
「ん、あぁ姫」
ずんずんと進んで行くと、会話を邪魔されたと思った女子からの視線が痛い。
「ノートありがとね、それじゃ」
「お、おぉ…」
あまりにも素っ気なく、顔も見ないでいったから忍足からは困惑の声が聞こえた。けど、そんなのも関係なしに私は立ち去った。
“ちっさいなぁ”
誰にでも言ってたんだね。私だけだと思ってた。平凡な私が唯一、忍足に見てもらえてたと思ったのにな。自惚れんな、自分。ずん、と重たいものが胸に乗っかってすごい嫌になった。なんとなく教室に帰る気になれなくて、そのまま屋上に向かった。昼休みも終わりそうだからか屋上には誰もいない。屋上の中でも見つかりにくい隅っこに腰を下ろすとチャイムが鳴った。
「あーあ、鳴っちゃったー」
焦りとか、罪悪感とかは思ったより湧かなかった。自分はなにやってんだろうか。あんな些細なことで授業をサボるとは。
「…はぁ、自分バカ」
「まったくや」
「へ…?」
上を向くと少し不機嫌な顔の忍足がいた。
「マボロシ?」
「現実」
全く状況を理解できない私のオデコに忍足はデコピンした。
「いったぁ!」
「アホ、ケータイくらいチェックせぇ!」
「ケータイ?教室だけど」
「それケータイちゃうやん」
でっかいため息をついて忍足は座った。
「忍足もサボり?」
「ちゃうわ。お前を探しとったらチャイム鳴ってもうたの」
「…なんで探してたの?」
なんか、またでっかいため息つかれた。何なんだ。
「あんな態度とられたらフツー探すわ、アホ」
いきなりそんなこと言われたら期待しちゃう、また自惚れそう。
「またまたぁー私にそんなこと言っても…」
「姫じゃなきゃ、せーへん」
気づいたら忍足が意外にも近くにいて、恥ずかしくて逃げたかった。
「なんとも思ってへん子なら、わざわざサボってまで探すわけないやろ」
「そ、それは、仲いいから…」
「…いい加減、気づいてや」
忍足はだんだん近寄るのが耐えられなくなってきて、肩を押す。
「気づくって何を!そんなこと言われたら、私すっごく自意識過剰だから自惚れたり、勘違いしちゃうから!マジやめてっ!」
勢い任せに言ってしまった。ダメだ、忍足の顔が見れない。
「それが正解や」
「え?」
ぐいっと引き寄せられて、私は一瞬で忍足の腕の中におさまった。
「ちょっと忍足!?」
いくら力をいれて逃げだそうとしてもビクともしない、男の力。
「捕まえたで、姫」
そんなめっちゃ笑顔で言われても。どうしていいかわからない。
「喜んで、いいのかな…」
「当たり前やろ!」
不意におでこに触れた、忍足の唇。
「んなっ」
「好きやで、姫」
only you
(これからは、私だけのもの)
(やっと手に入れたオレだけの姫)
081125