"別れよっか、ラビ"
"ばいばい"
あの別れから数日が経った。今でも鮮明に思い出される言葉。数秒の言葉が何十年の時間が過ぎるみたいに感じた。
無理して作ったのがバレバレな笑顔が痛々しくて見てられなかった。あまりにも衝撃的で予想してなかった言葉を理解したときには姫はオレの脇を抜けて走り去っていた。
考えてみれば別れの言葉を告げられて当然だ。思いあたることが有りすぎる。
姫と一緒にいることが当たり前すぎて退屈だと感じてアレンたちとバカやらかして姫に全然かまってやんなくて、一緒にいても違うことばっかり考えてた。
あの日だって、探索部隊の子に告白されたとき、キスしてくれたら諦めますって言われて、いいよなんて軽くオッケーして。でも、やっぱり気持ち悪かった。あのときも、姫が離れていかない自信があったから、そんなことしてしまった。オレはバカだ、姫のこと考えたら、そんなことあっちゃいけないのに。断るべきだったのに。でも、今さらそんなこと振り返っても遅い。姫はオレの隣にいない。
しんみりした雰囲気も叩き壊すかのように盛大にドアが開いた。
「大変ですラビ!姫がっ…!」
「え…?」
一瞬マジで心臓が止まった気がする。アレンが血相変えて部屋に来るやいなや言った言葉のせいで。
オレは今自分でも信じられないスピードで医務室に向かっている。
『姫がアクマにやられて瀕死の状態なんですっ!!』
頼むから嘘であってくれよ…!
オレはドアを壊しそうなくらいの力で開け医務室に入る。入ってすぐに包帯を全身に巻いた姫が力なくベットに横になっているを見つけた。
「姫っ…!」
隣で呼んでも返事はない。頑なに閉じられた瞼。嘘じゃない現実。
「…っ!!マジで…頼むから死ぬなよ…!オレの隣にいなくても、生きて、いて、くれよっ」
包帯の上から握る手は微かに冷たい。その体温で痛感する姫の存在のでかさ。
「姫がいない世界なんかいやだ…」
だらしねぇ、泣きそうだ。もう、零れそうなくらい涙は目に溜まっていた。
「姫…目あけろよ…」
唇にそっとキスした。そうしたらおとぎ話みたいにピクリと瞼が動いた。
「ん……ら…び?」
虚ろな目で確かにオレを見て、オレの名前を呼んだ。オレの涙はついに零れ、止まらなかった。
「姫!」
「…らび、ゆめかな…」
「夢じゃないさっ」
弱々しい笑顔。それでも、まだオレに笑顔を向けてくれんの。
「らび、なかないで」
「…っ…」「らびの…ゆめみた、」
「え?」
「だから、死ななかった」
「ありがとう」
あぁ、もう限界だ。
「姫!オレはオレは、姫がいなきゃダメみたいだ…」
だらしなくても、カッコ悪くても、伝えたい、伝えなきゃいけない。
「だから、別れようってのなしにしてくんね?」
「ゆめ…?」
「全部、現実さ」
オレは一回深呼吸をして、手を握る力を少し強めた。
「オレは姫がどうしようもないくらい好きだ。オレがバカだったって気づいたんさ。もう、悲しい思いはさせない。だから、もう一度オレに恋人になって?」
姫は目いっぱいに涙を溜めて見つめている。
「ラビのばか…」
「おう…」
「もちろん、だよ。わたしもラビがどうしようもないくらいに、好きだから」
姫はそれだけ言うと、また深い眠りについた。その言葉でオレの気持ちは軽くて、もう一度キスをした。
愛し君へ
(これが夢じゃないように、君が起きたら力いっぱい抱きしめる)
081029