私は普通の高校生で、普通に暮らしていて、ただ、ちょっと変なものが見えるだけの、普通の女の子。だけど、さすがにこの状況はそうも言ってらんない。


「待て、人間、食ってやる!」

「冗談じゃないっ」


今、鬼みたいな顔の小汚ないお婆さんに山の中で追いかけられています。 逃げても逃げてもしつこく追いかけ回してきて、本当やんになる。まだ、恋だってしてないのに死ぬなんてまっぴらごめん。


「うっわ、」


足元まで注意がいきわたらなくて、こてんとそこにいた小石につまづいて、そのまま転がり落ちた。ありえない。麓の方まで一直線に落ちていって、視界が開けたら人と猫がいた。


「あぶなっ!」

「え?いてぇっ!」


叫びも虚しく見事にぶつかった。おかけで私には怪我なく済んだ。いや、そうじゃなくて。ばっと顔を上げたら、ぶつかったのはクラスメートの夏目くんだった。


「どんくさいぞ、夏目」


今、猫がしゃべった。いや、きっと気のせい。てか、その前にここから急いで離れないと‥!


「ごめんなさいっ!そ、それじゃっ!」

「あ、ちょっと!」

「見つけたぞ!」


あぁ、バッドタイミング。来ちゃった、アイツが。 でも、この人には見えてないはず、このまま囮になって逃げよう。


「ん、貴様!レイコか!」


え、標的を夏目くんに変えた?なんで!今はそれよりも夏目くんが危ない!


「逃げてっ!」


夏目くんを思いっきり突き飛ばすと、妖怪の伸ばした手から間一髪で免れた。


「返せ、名前を返せ!」

「先生!姫を頼む!」


先生って呼ばれた太い猫は一瞬で白くてでっかい狐になった。そのうちに夏目くんは紙をくわえて、妖怪の額に何か文字みたいなのを入れていた。


「夏目くん、きれい…」


そしたら、妖怪は穏やかな顔で消えた。まるで夢でも見てるみたい。アイツいなくなって、放心気味で夏目くんを見つめていたら、すっと手を差し伸べられた。


「大丈夫か?」

「あ、うん!ありがとう」

「夏目!腹へったぞ」

「あー!やっぱり喋った!」


いつの間にか猫に戻ってるし。やっぱり喋ったし。


「もしかして、姫は…その、見えるのか?」

「え、あーうん」


やばい、また気味悪いって思われる。でも、待てよ。さっきの妖怪といい、猫のことといい、夏目くんって、


「夏目くんも見えるの?」


うん、そう言って不器用に笑う夏目くんに思わず抱きついた。

「姫!?」

「初めて、初めて、会った…見える人…」


自分でもびっくりするくらい泣きそうな声だった。 夏目くんから離れて手を差し出した。


「夏目くん、お友達になって下さい!」


夏目くんはどこか嬉しそうな顔で手を握ってくれた。








始まりはここから
(私が夏目くんに恋するのはもう少し先)




09030
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