さかなかな | ナノ

 さかなかな


 ショーウィンドウには魚の形をしたパイが飾ってありました
 ライトに照らされたそれは
 美味しそうに光を放っています

 それをガラス越しに見つめる獣人の子供がふたり
 ひとりは真っ白な耳と尾で
 尾には赤いリボンと鈴が結ばれておりました
 もうひとりは紺色の耳と尾
 目つきは鋭く 常に怒っているような顔つきでした

 「シロ……それは魚に見えるけど 中は肉だぞ」

 ガラスに手をぴたりとつけて なかを覗き込む真っ白な耳と尾の子供に
 紺色の耳と尾の子供は小さく言いました
 シロと呼ばれた子供は耳をぴくんと動かして
 「そうなの……?」と首を傾げます


 「おさかなだと思った」

 紺色の耳と尾の子供――コウは穏やかな口調で
 「今夜は焼き魚にしような」
 と言いました


 縫い合わせたように暗闇で敷き詰められた夜空の下を ふたりは歩いていきます
 とてとてと ゆっくり歩くシロにあわせて
 コウもゆったり歩を進めます


 時折 誰にも聞こえない程か細く コウがシロを呼びます
 それはシロにしか聞こえない
 シロの本当の名でした

 名を呼ばれる度に シロは少しはにかんで
 しっぽをふわふわ揺らしました
 ちりちりと 鈴が鳴りました

  
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