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▼ 第四夜、イエローダイヤモンドと星空の夢

「あれがベテルギウス」

 美しい人というのは、声まで美しいものか。紙にインクが染み入るように、体にその言葉がすとんと落ちていく。こんなに美しい人と仰向けになって天体観測をしていることが、とても誇らしく思えた。

「あれがシリウス、それからあれがオリオンで……」

 星の名前が何かというのはどうでも良いことに私には思えた。ただ、私が興味を持っていないことが彼に知れたらこの時間が終わってしまうような気がして、何度も頷いてみせるのだった。

「本当にお前は星が好きだなあ」

 檸檬色が瞬き、彼の暖かい笑みを生んだ。幸せとはこういうものか、と漠然と思った。

「あの星も、あの星も。俺達みたいに何かが生きてるのかもな」

 その言葉はいっそう、彼に会えた喜びを膨らませた。運命があるならこのことだと思うし、運命の人は彼であってほしい。

 彼は夜空へ向けて伸ばしていた手を下ろした。

「こうしてるとさ、夜空に吸い込まれそうになるな」

 そうだね、と私は同意する。彼と話すことが嬉しかったし、彼が笑いかけてくれることも嬉しかった。私の手を、手袋越しに彼が触れた。まるでちょっかいを出すような些細なそれは、私の胸を高鳴らせるのには十分すぎる動きだった。

 結局私は星空なんてどうでもいい。彼が隣に寝転んで、その美しい声を響かせてくれるのだけが重要なのだ。

 どこからか風が吹き、私の前髪を乱していく。私が煩わしげに首を揺らしたのを見、彼はまた笑った。だから風もそんなに悪くないと、そう思った。

「こうして見てると色々考えちゃうなあ」

 私が首を傾げると、彼は答えた。

「つまらない、もしもの話さ」

 つまらないと称しながらも、彼はその話をすると決めたらしい。彼は一度背伸びをし、長い睫毛をぱちぱちさせて口を開いた。

「もし、重力がなければ」

 彼がこちらへ向いた。目と鼻の先に、美しい色が視界いっぱいに飛び込んでくる。私がなにか言う前に、彼は目を細めた。

 うっとりとした、蕩けたようなそれだった。

「どうなると思う?」

 彼のその言葉に、ぱっと夢見心地の意識が覚醒した。吸い込まれるなんて、生易しいものではない。私たちは確かに、夜空へ落ちていっていた。

「夜空に落ちていくなんて、幸せなことじゃないか」

 もし星になるなら、きっと彼は一等星だろう。私は流れる星にすらなれない。光の粒として、宇宙に散らばっていくのだ。

 ベテルギウスの光がどんどん強くなる。体に当たる風がぐんぐん冷たくなっていく。そのことに、もはや地上には戻れないことを悟った。

 隣を見ると、彼が瞳に星屑を宿して笑っていた。もう手遅れらしかった。
イエローダイヤモンドと星空の夢


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