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「オレ楽器ピアニカくらいしかできないけど大丈夫かな」
「俺達だってそうだ……よな? んまぁ、御伽のことだし何かしら考えてんだろ」

結局ジャンクウォーリアーにぶっ飛ばされたヨハンは、覇王の鎧をリズミカルにカンコン叩きながら着いてきた。その音が頭の中でこだましているからか、十代はよろよろしている。


『彼らのチームとしての責任は、果たすべきだろ?』
『……それもそうだな。わかった、手伝うぜ!』

デュエルの決着が着いた後のこのアンドレの言葉に、ヨハンは拍子抜けなほどあっさりとうなずいた。それだけだ。最初から彼に説得してもらえば早かったんじゃないだろうかと思う、実に呆気ない話だった。

『まあ大会の日とは被ってないし、大丈夫だろ』
そしてあれだけ言っていたはずのブレイブもヨハンの参加を軽く許可した。呆気ない2nd。どうやら彼はただ城之内の反応を楽しんでいただけらしい。それもまた絶妙に城之内の神経を逆撫でしたが、彼は怒りを飲み込んでその場を後にしたのだった。こうしてサッカー部とのちょっとした抗争は幕を降ろした。


一行は次なる一手に出た。
灼熱の陽光が注ぐ校庭。いよいよ誘える人材がいないので、外に出て暇そうな友人の家まで足を伸ばそうという段階になったのである。

「ああ……そういえば獏良も弁当の時いたな、今なら二人分だ」
「マクラはおしょらく家にいるだろう。休み中はゲーム三昧だとかほざいてたからなぁ」
「じゃあ電話し……て出てくるやつじゃねーなあいつ。直接引きずり出すしかねぇな。あと…」

「城之内くーん、みんなーっ!」どこからか、へろへろに掠れた叫び声。その小さな響きを拾った遊星は、やけに聞き覚えのある音だと振り返った。

「……あれは、遊戯さん?」
息を切らして走ってきたのは、学校にいるはずのない遊戯だった。相変わらずの猛暑の効果で制服のシャツはぴったり張り付いてしまっている。球のような汗をぱたぱたと落としながら城之内たちの前まで走ってきて、苦しげに身体を折った。城之内は慌ててその背を擦る。

「遊戯! どうしたんだよ、大丈夫か?」
「はぁ、はっ、ボクは大丈夫……き…昨日のニュース、見たでしょ? あれからずっと、気になっちゃってさ……何か手伝えることがあれば、って音楽室に、行ったら、城之内くん達が、助っ人を探しに行った、……って聞いて……」
息を整えるように深く吸ってから「アテムと一緒に探してたんだ」と吐き出して、苦しげながらも笑った。

「そうなのか、お前っ……」
城之内が遊戯の健気な友情に涙腺を緩めている、と、
「いや、あの」この場に水を差すのを申し訳なく思うのか、遊星が躊躇いを混ぜて「……アテムさんの姿は見えませんが」と周りを見渡し呟いた。

「え?」
遊戯が背後を振り返る。バスケ部らしき男子たちが、清々しい汗を流しながらランニングをしているだけで、あの目立つ頭はどこにも見当たらなかった。

…はぐれた? 嫌な予感を載せた声は音にならず、ただ唇が動くだけだった。
アテムはずっと遊戯と一緒だったものの、この校舎の構造をよく知らない。まあそこは待ってればそのうち外に来るとは思うのだが、何より心配なのは不良相手に闇のゲームを仕掛ける事だ。
悪を見逃せない性格が仇になりすぎて、遊戯の知らないうちに問題を起こされていることもしょっちゅうだった。それが今や自分の身体を得たのだから、やりたい放題だろう。そしてあまりに似た容姿をしているが為にとばっちりを食うのは遊戯になるわけで、身に覚えの無い呼び出しで反省文書かされたり、不良グループに喧嘩を売られて、それすら知らないうちにコテンパンにしていて……


「くっ――そぉ、なんで!」
最後の年くらい平和に過ごしたい。怒りとも心配ともつかない衝動に突き動かされた遊戯はそのままの体勢で振り返ると、校舎にリターンした。

「おいっ、遊戯!」
「遊戯さん、」その今にもつまずきそうな走り方を見かねた遊星が、思わず後を追う。

「アテム見つけたら助っ人探し手伝うから、先に行っててー!」
「俺もアテムさんを捜すのを手伝ってくる」

「お、おうわかった! じゃあ2人とも1時に学校集合なー!」
「あははは! 気ぃつけろよー」

大丈夫、と手を振る小さな背中とそれを追いかける蟹頭を見送って、残された4人は再び校門に向き直りまるで円陣を組むかのように肩を寄せ合った。

「よし、オレ達も分かれるぞ」声のトーンが知らず知らずに内緒話のようになっていることに、城之内は気づいていない。

「分かった。じゃあオレは十代と寮の仲間をあたってくるな!」それにつられて、十代の頭をがっちり寄せたヨハンも声を萎める。

「バクラたちを呼んでくりゃあいいんだなぁ? ついでにバクラに知り合い集めしゃせればしょこしょこ溜まりそうだねぇ」何かを企むような声音のマリクも、やや音量を下げている。

「なんだお前ら目星ついてんのか。なら任せたぜ、さっき言ったとおり集合は1時、吹奏楽だったやつとか、まあ楽器できる奴が優先な」
「了解。十代って中学校どこだ? 」
「……?」十代は意味がわからない様子でじっと押し黙っている。この状態の十代が戦力になるのかは分からないが、コミュニケーション能力の高いヨハンにすべて委ねることにした。

「じゃあ話はこれで終わりだねぇ」
「そうだな……うっし、じゃ行こうぜ、諸君のケントーを祈る!」

作戦開始っ! 楽しげにヨハンが会議の終了を宣言し、敬礼もどきのサインとともに元弁当輸送犯たちは生け贄探しに走り出した。




++++
久々の更新!
サッカー部は某超次元サッカーのテンションでやってる





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