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もう面倒くせえから誰かに後でノートを写さしてもらうことにした。でも誰に写さしてもらおうか迷うな…

この古典クラスは他の補習クラスに比べて人数がちょっとだけ少ないらしい。俺も数えたことはなかったな、んーっと…8人ってとこか。


1番最初に見えたのは隣の席の十代が教科書を盾にして机に突っ伏している様子だった。

規則正しく繰り返される息から察するに、暑さにへばっているというよりも純粋な睡魔に負けちまったってとこだろう。元気な奴だな。

やっぱりノートは…とってねえな、真っ白だ。こいつは間違いなく俺と同じ境遇だろう。よし、後で写さしてもらった俺のノートを写さしてやっか。代わりに飯奢ってもらえりゃ完璧だな!

しっかし、こいつが無いなら誰にするか…


マリクは一応毎日寝ねえで頑張ってっけど、なんでかクレヨンでノートとるしひらがなは形が違くて読みづれえから借りてもしょうがねえんだよなー…やっぱそのへんは6歳ってことか。普通のマリクは学校が面倒くさいとか言っていつもこっちに変わってるらしい。…ずりぃ身体だよ全く。


俺は前に視線を移す。
………お! そういえばいるじゃねえかわりと真面目にノートとってるやつ。

俺はいつも通りのカニ頭の背をちょんちょんつついた。

遊星は顔だけちらりと動かして、表情の分かりづらい顔にハテナを浮かべてこっちを見てきた。


……その机の上には山盛りの米が盛られた弁当、とそれをすんげー頼りなく隠す古典の教科書。なんか思わずため息がでてきた。こいつは毎時間弁当を食ってないと死ぬのか?
はは、この補習組は夏バテ知らねー奴等ばっかだぜ。


「……ん、なんだ凡骨


……!?


「おい! 何でお前がその呼び方使ってんだよ」


「? 社長がそう呼べば喜ぶと言っていたんだが…」



海馬テメエこの野郎!! なんつー事教えてんだ下級生に!!

俺が歯を食いしばったのが不思議だったのか首を傾げ、でも白米を頬張りつづける遊星。そうだよな、お前は下の学年だからわかんねえよな…俺と海馬の仲は。


ちなみにこいつが食ってるおかずは蟹の蒸し焼きと蟹味噌だ。
…何でか共食い、という単語が頭を掠めた。


「…もしかしてそう呼んではいけなかったのか?」

恐る恐る、遊星が俺の顔を覗きこんでくる。


「ああ、あれは海馬が俺を馬鹿にした呼び方っつうかそんなんでよ…ま、まあいつも通り城之内って気軽に呼んでくれよな!」
申し訳なさそうに声を下げるもんだから、俺も慌てて答えた。

1番わりぃのは海馬であって、遊星じゃないんだからな!
そう付け加えても、遊星は申し訳なさからなのか若干しゅんとして目を伏せた。


「そうか…すまないな、城之内」

…それでも弁当を食べる手は止めなかったってのがこいつらしさと言うべきか。

飯つぶごと箸をくわえて落ち込む遊星はいつもクールそうに見えんのとはちょっと違ってて、なんか年相応な反応だったから俺は驚いた。
でもなんだか後輩らしいとこを見せるこいつが可愛く思えて俺は後ろから身をのりだしてカニ頭をぐしぐし撫でてやる。


「へへ、わかりゃいいってことよ!」


遊星は俺の手に撫でられながら目をまんまるくして、でも安心したのか飯つぶだらけの口元に笑みを浮かべてありがとう、と返してくれた。


なんかこいつ、どっか遊戯に似てるとこあるよな。






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