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「あ、そうだ!!」

沈みはじめた自分の表情を取り繕うようにモクバは急速に顔を上げた。

「明日、野球部の応援だって聞いたぜぃ!! 兄サマも行くんだよな、オレも…」
「いや…やめておけ、モクバ」

「…え?  な、なんでさぁ兄サマ」

モクバが楽しみにしているところを見るのは嬉しいが、あいつらの演奏レベルの低さに肩を落とすモクバを見たくはない。少し悲しげなモクバの頭を撫でながら諭す。


「あいつらのレベルは俺より低すぎる。あの程度の演奏ではモクバが聞いていても面白味に欠けるだろう」

「っ、違う、兄サマ、オレは…!!」

「今度一流のプレイヤーを呼んでおく。それでいいだ「兄サマっ!!

いきなり大声を張り上げたモクバに、俺は内心驚くとともに妙な不安を覚えた。不安など馬鹿馬鹿しいと思うのだが、モクバに関しては別である。

モクバは心なしか…いや、確実に肩を震わせ、涙声で顔を歪ませている。
モクバが、俺に憤りを感じているというのか…?

「オレは…うまい演奏が聞きたくて言ったんじゃないんだ。ただ、兄サマがっ、うっ、」

「モクバ、れれれれ冷静になれ」
否、1番冷静じゃないのは正真正銘この俺だ。モクバが明らかに、この俺に対して閉塞的な負の感情を向けている。そのようなことは今までなかったはず、だ。


(兄さまは背が高いから、きっとああいう楽器が似合うぜ!)


「…こんな兄さまを見るなら…あんな事言わなきゃよかった…」

「モクバ…?」

「兄サマは、楽器を吹いてても全然楽しそうじゃない!  周りのことばっかり言って自分は全然じゃないか!
映画で見たように、皆と一緒に楽しく演奏する兄サマを見れると思ってたのに!」

「っ、モクバ、俺は」
「もういいぜぃ!」

「モクバ!!」

俺が伸ばした手はモクバの肩を掴みかけたが、それはモクバの手が俺を払ったことによって叶わなかった。

――俺がモクバに、拒絶された…だと?


また乃亜のやつに何かされたわけではない。

何か悪いものを食べたわけでもない。この俺が――


「モクバ様!」

磯野が慌ただしくモクバを追うのが見えても、俺は瞬きすることさえできなかった。去り際に残したモクバの一言が深々と突き刺さった痛みに、動けなかったのだ…


「兄サマなんか…兄サマなんか大っ嫌いだぁっ!!


俺は生まれて初めて、モクバと心が離れてしまったのを感じた。それは俺にとって生の無価値を知らしめられたようで、ひどく胸が痛んだ。


「モクバ…俺は…兄として失格なのか…?」

何故お前がそのように怒りの感情を露にしたのかさえ、俺はわからないのだ。


**


「というわけDA」

「海馬くん…なかなか深刻な兄弟喧嘩だよそれ」

でもこれは9割9分くらいで海馬くんが悪いだろう。急に海馬くんが吹奏楽部に来たのにはそんな理由があったのか…

いきなりすぎて道場破りかと思った部長がエボリューションレザルトバーストグォレンダなる技(?)を繰り出してしまったくらいだ、きっとモクバくんに言われてすぐに来たんだろうな。


「で、モクバくんは今…」

「後に補習が終了した磯野が付いて野球場に来るらしい」

「そうだね…着いたら1回モクバくんと話をしたほうがいいよ」

「ふぅん、言われなくてもそうすr…うっ」

海馬くんが急に胸のあたりを抑えこみ伏せたので僕はびっくりして海馬くんの背に手をかけた。まさかモクバくんに嫌われたショックで心臓マヒでも起こしたのかい!?


「海馬くん!?  どうしたんだい!」

「ぐ、っ…この俺が……
 車酔いごときに…負ける、だと…?

ずっと下向いて喋ってるからだよ! 誰かー! エチケット袋!

全く、こんな人が社長でKCは大丈夫なのかな…不安になってきたよ。






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